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第243話
俺も部屋を出ると玄関に向かう途中の彰子さんに会った。
「あ、純くんここにいたの。今日は帰るけど、また来るわね」
「はい、お気をつけて」
三人が帰ったのでリビングに戻ると、正和さんと芳文さんは仲良くお酒を飲んでいた。芳文さんはまだしばらく帰りそうにない。
すると、リビングに来た事に気づいた正和さんが手招きする。
「純、おいで」
芳文さんに睨まれて、あまり行きたくないが、正和さんの隣に行く。
「純も飲んだら? 芳文の持ってきたやつ美味しいよ」
「俺はいいよ! まだ高校生だし……」
「そうだよ兄さん、未成年に飲ませちゃダメでしょ」
そう言って、芳文さんは正和さんのグラスにお酒をつぐ。
「あ、経営の事で相談があるんだけど、あとで書類みてもらってもいい?」
「いいよ。でもそれなら彰子さんに聞いた方が良かったんじゃない? さっきまでいたし」
「俺は兄さんに聞きたいの」
「仕方ないなー。じゃあそれ持ってきて」
「はーい」
芳文さんはこちらを向いてニヤリと笑って立ち上がった。
「純、悪いけど部屋行っててもらってもいい?」
「あ、うん」
「ごめんね」
正和さんが申し訳なさそうにするので、顔の前で手を振って否定する。
「全然! 芳文さんもゆっくりしてってください」
「ほんと? ありがと、純くん」
芳文さんはお礼を言っているが、当然というような顔をしている。『早く出て行け』という雰囲気なので、俺は顔を逸らしてリビングを出た。
部屋に戻っても特にする事もなく、ベッドに横になる。
(芳文さん……苦手だなあ)
正和さんの弟だし、二人とも仲良いみたいだから仲良くしようと思うのだが、嫌われているようだし、あの性格はどうも好きになれない。
(はあ……寝よ)
* * *
目が覚めて手探りでスマホを取り、画面をつけた。重い瞼を半分ほど開けて時刻を確認する。
七時二十三分。彰子たちが帰ったのが五時頃だったから、二時間も寝ていた事になる。
大きく伸びをして、ベッドから抜け出す。
(……もう帰ったかな)
部屋を出てリビングに行く途中の廊下を歩いていると、正面から正和さんも歩いて来る。
「今呼びに行こうと思ってたんだ」
「……芳文さんもう帰った?」
「今日と明日泊まる事になった。夕飯できてるからおいで」
そう言って、リビングへ戻る正和さんについて行く。やだな……、と思うが彼の身内だし口出しはできない。それに二人とも仲良いから、そんなこと言ったら正和さんに嫌われそうだ。
おせちの残りと、新たに作ったのか煮魚がテーブルに並べられていた。いつものように正和さんと向かい合って座るが、いつもと違い彼の横には芳文さんがいる。
終始正和さんに甘えてベタベタしている芳文さんを見ると、なんだかモヤモヤして嫌な気分になった。
「どうした? 美味しくない?」
そう言った正和さんは普段通り、優しく気遣ってくれているのに、うまく笑えない。
「ううん、美味しいよ」
「純くんちゃんと食べないと大きくなれないよ?」
揶揄うようにそう言う芳文さんは、緩くパーマのかかった明るい髪色のせいか、または彼のふわっとした雰囲気のせいか、そんなに大きく見えない。
しかし、一八二センチある正和さんより、少し小さいくらいで、ほとんど変わらないから一八〇センチ近くあるのだろう。
「今日はちょっと食欲なくて……」
「ふーん。じゃあその魚ちょーだい」
そう言って、俺の分の煮魚を持って行く。
「芳文」
正和さんが咎めるように彼の名を呼ぶが、悪びれる様子もない。
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