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第245話

「……もうすぐ旅行だよ。準備した?」 「まだしてない」 「一緒に行ってくれないの?」  なんて、冗談めかしてきいてくる彼の胸に顔を埋めたら、頭を優しく撫でられた。 「……なんか俺、芳文さんに嫌われてるっぽい」  そうかもね、と彼は苦笑する。   「ごめん」 「何で純が謝るの?」 「いや、正和さんの弟だし、仲良くしようと思ったんだけど、ちょっと無理っぽい」  そう言うと彼は少し考える素振りをする。 「……あれは昔からそうだよ。俺のこと大好きで俺と仲良くする人が許せないらしいよ」 「そうなの?」 「ん、俺の周りの人で仲良くなった時はその子の事が好きになったか、付き合った時だし」  そう言って俺を抱き締める腕に力が入る。 「だから、純と芳文が仲良くしてたら焦る」 (そうなのか……)  なんかそれって最悪な性格だな、なんて思ったら、彼は俺の心を読んだかのように苦笑する。 「困った性格だよね。でもそんな風に懐いてる弟が可愛くて、大抵の事は許しちゃうんだ」 「……弟に優しいんだね」  いいなあ。俺もそんな優しい兄が欲しかったな、なんて。 「んー? 優しいよ、俺は。純にも凄い優しいでしょ」 「……いや、意地悪ばっかされてるし」  そう言えば俺の兄ちゃんも三月にはアメリカから帰ってくる。兄は両親から借金の事や、家を出て行く事を知らされていたんだろうか。兄には知らせていたんだとしたら結構辛い。  いや、借金返すよう脅してきたおじさんの話し方からすると俺を売ったんだろうな、きっと。そうは言ってなかったけど。 「はあ……」 「そんなに俺、意地悪だった?」 「んー、優しいとこもちょっとはあるかも?」 「……じゃあ純の言葉通りちょっとしか優しくしない」  そう言って唇を尖らせる正和さん。それは凄く困る。 「っ……冗談だって! 正和さんすっごく優しいしっ」 「ふーん?」 「もうやだ……あんまりいじめると嫌いになっちゃうよ、正和さんのこと」  もっと優しくしてください……、と小さく呟けば、彼はクスクス笑う。 「それは困るな。……でも意地悪な俺の事も大好きでしょ、純は」 「~~っ」 「かーわい」  そう言って額にキスを落とされ、顔が真っ赤に染まった。  芳文さんがお風呂から上がるのを二人で待ち、リビングに彼が来るとすぐ、正和さんは芳文さんを責める。 「芳文、お前文書消したろ」 「え!? ごめん、兄さん! 消えてた? パソコンつけっぱなしだったから、ちょっと見てただけなんだけど……本っ当ごめん!」  そう言って顔の前で手を合わせ頭を下げる芳文さん。 「ああ……まあ別に大した内容のやつじゃなかったし良いけど、今度から――」 「いや、本当にごめん!」 (うわ……この人絶対嘘だし……)  今俺の事見てニヤッとしたもん、一瞬。絶対俺が怒られるの分かっててやってるし。

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