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第246話
「……次からは気をつけて」
「うん。後でちゃんと作り直すよ!」
「いや、いいよ」
てか、正和さんもなんだよ。弟とは言え三十近い男に甘やかし過ぎじゃないの、なんて。
今日も明日も泊まるのかと思ったら、眩暈がする。
「シャワー浴びてくる」
そう言って正和さんは席を立ち浴室へ向かった。芳文さんと二人っきりになってしまい、微妙な空気が流れる。
(部屋戻ろうかな……)
「あんたってこの家来てどれくらいな訳?」
(うわー、話しかけられた)
「三ヶ月になりますけど……」
「ふーん。あまり兄さんにベタベタしないでよね」
いや、ベタベタしてるのは芳文さんだし、もし俺がベタベタしてるように見えるならそれは正和さんのせいだ。
「ベタベタしてるつもりはないんですけど……すみません」
「ねえ、寝る時って兄さんと寝てるんでしょ。今日は俺が兄さんと寝ても良いよね?」
「それは……正和さんに聞いてみないと」
「だめなの?」
「えっと……っ」
(冷た……っ)
コップに注がれたミネラルウォーターを顔にかけられて、胸や太ももの辺りもびしょびしょになる。冷蔵庫から持ってきてそんなに経っていないからかなり冷たい。
(本当、最悪……何で俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ……)
「俺、別に二人の邪魔する気ないし……意地悪、結構辛いです。俺のことが気に入らないなら部屋でおとなしくしてるんで……こういうのはやめてください」
「……へえ、可愛いね」
(…………は?)
芳文さんは歩いて俺に近付くと、俺のすぐ後ろに立つ。
「っん……!」
ふぅーっと耳に息を吹きかけられてゾクリと体が震えた。耳は弱いからやめて欲しい。というか何なんだこの人。
「んー、可愛い反応」
そう言って肩から前に手を回し、背中に密着してくる。何をされるかわからない恐怖からか、緊張からか、心臓がドキドキする。
「ごめんね、純くん」
「え……?」
「俺、兄さんのこと大好きだからさ、彼女だって聞いて嫉妬しちゃった。あ、大好きって変な意味じゃないから」
なになに。いったい何。てか正和さん、俺のこと彼女だって紹介してんの? それおかしくね? 俺、女じゃないし。
「でも、純くんいい子そうだし、これじゃ俺、凄く意地悪い人みたいじゃん?」
握手で手抓ったり、俺が怒られるようにわざとデータ消したり、水をかけたりしておいて、意地悪な人じゃなかったらなんなのだろうか。
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