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第250話
昨日も夜は三人で眠った。
朝になるとまた、早く起きた正和が抜け出して、俺は芳文さんに抱き付かれている。
だが、今日帰る事になっているので、今晩からはゆっくり寝られるだろう。腕を剥がして抜け出すと芳文さんも目を覚ます。
「おはよー……」
「おはようございます」
寝ぼけた声で言ってくる芳文さんに挨拶を返して、ベッドを降りようとしたら手首を掴まれた。
「え……?」
「純くん、メアドとケー番教えて」
「……何でですか?」
「兄さんの近況とか教えて欲しいし」
「それは直接聞いたら――」
「お願い! たまに来るし兄さんいない時とか連絡とれないと困るじゃん?」
言葉を遮るようにそう言われ少し考える。
(確かに連絡とれないのは困るかも? ……いや、困るのって芳文さんだけだし)
「お願い!」
そう言って手を顔の前で合わせて頭を下げる。そこまでお願いされてしまうと、なんだか断りづらい。
「……チャットでも良い?」
「あー、うん。大丈夫」
お互いチャットの登録を済ませた所で正和さんが部屋に来る。
「おはよう。朝食できてるよ」
「あ、兄さんおはよ~。顔洗ってくるー」
芳文さんはハイテンションで顔を洗いに洗面所へ向かった。正和さんは俺に近寄って、ぎゅっと抱き締めてくる。
「明日楽しみだね、温泉」
「うん」
「今日はお昼食べに行って、芳文の事そのまま駅に送ってく予定だけど、純はどーする?」
「……俺は家で待ってるよ」
「そっか。じゃあご飯作っとくね」
「ありがとう」
抱き締めていた腕を離し、二人でリビングに向かうと、美味しそうなほっけの匂いにお腹が鳴った。
*
温かくて心地良い。すり寄って、くんくん、と鼻を鳴らせば大人っぽい色気のある良い匂い。胸が満たされるような、頭の中がふわふわするような、とても落ち着く正和さんの匂いにため息が出そうになる。
「純」
名を呼ばれて徐に目を開く。
まだぼんやりとした意識の中で、正和さんが優しく微笑んだ。
「おはよう」
次第に頭が冴えてきて、彼の声もクリアに聞こえる。
「……おはよ」
「可愛い。朝ご飯作るから、純は出かける準備してて」
彼は額にキスを落として、するりと腕枕を解きベッドを降りた。
「んー」
伸びをしてゆっくりベッドを降りる。カーテンをチラッと捲って外を見ると、良い感じにお日様が出ていて今日はそんなに寒くなさそうだ。
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