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第252話
車で二時間かからないくらいで着いたのは海が一望できる旅館。本館でチェックインを済ませた後、離れに案内されて何度か瞬いた。
(広い……)
正和さんとスタッフが話しているのを聞きながら部屋を見回す。
「かしこまりました。後程お持ち致します」
「ありがとう」
「では何かありましたら内線九番までお申し付けください」
ベッドルームの隣には、ソファの置いてあるリビングのような広めの部屋、お風呂も洗面所も広くて洗面台が二つにスツールを置いたメイクスペースまである。
外にはこの離れ専用の露天風呂まであると言うから驚きだ。ベッドルームとリビングの窓からは、海の綺麗な景色が見える。
窓を開けると少し湿った風が吹き込んだ。
しかし、日は照っているものの、冬の寒さに加えて、吹き込む海風でいっそう冷える部屋には耐えられず窓を閉める。
後ろを振り返ると、正和さんは旅行用の少し大きめのバッグを下ろして中身を探っていた。そんな彼にそっと近寄って後ろから抱きついてみる。
「……どうした?」
作業を中断して優しく聞いてくる正和さんの背に、甘えるように顔をくっつける。
「正和さん」
「んー?」
「今から何するの?」
一時を少し過ぎたが、朝ご飯が遅めだったのでお腹はあまり空いていない。
「どっか観光する?」
「うん……夕飯何時?」
「七時だよ。お腹空いてる?」
そんなに、と首を軽く横に振る。
「じゃあ、コンビニでサンドイッチか何か買って軽く食べとこうか」
「うん」
「ちょっと待ってて」
そう言って正和さんはバッグの中からデジカメを取り出しパンツのポケットにしまった。
黒のパンツに、少し厚めのグレーのニットカーディガンはへちま襟で、同系色のストールをお洒落に結んでスッキリまとまっている。
カッコいいなあ、なんて見ていたら彼はニヤッと笑った。
「なーに? そんなに見つめてエッチでもしたくなった?」
なんて、こういう事言わなければ本当イイ男なのに勿体ない。
* * *
お昼はクリームソーダとぜんざいといった甘いもので済ませ、トリックアートを見に行ったり、足湯をしたり海の近くを散歩したりして五時頃宿に戻った。
帰ってから少し休み、夕飯まで時間があるので、大浴場に行く事にする。用意された浴衣に着替え、茶羽織を羽織って、正和さんと二人で本館まで歩く。
離れから本館までそんなに距離はないものの真冬とあって寒い。バスタオルをぎゅっと抱き締めたら、左手を掴まれ、そのままするりと手を繋がれた。
胸が高鳴り、鼓動はトクントクンと速度を増していく。寒かったはずなのに何故か顔が熱くなって、赤くなった顔を隠すように俯いた。
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