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第257話

「予習してんの?」 「いや、聞いたことある会社だったから……正和さんって年収いくらあるの?」 「……えー、純くんお金目当て? ヤラシー」 「ち、違っ……」  慌てて否定すれば彼はニヤリと笑う。 「知りたい?」 「……別にいい」 「じゃあ教えない」  そう言って正和さんの腕が離れる。何だか上手いことはぐらかされてしまった。 「あ、今日は夕飯何食べたい?」 「……カレー」 「んー、今からだと間に合わないから明日でいい?」 「うん。じゃあオムライス食べたい」 「わかった、待ってて」  彼は俺の唇に軽くキスを落とすと、キッチンへ足を向けた。 * * * 「これとかどう?」 「あ、良いですね」  なんて、芳文さんと会話しながら電子カタログを見る。なんだかこの一時間で凄く打ち解けてしまった。初めて会った頃からは考えられないくらい意気投合して会話が弾む。  こうなったのは遡ること一時間前、芳文さんがケーキを持って突然やってきたからだった。  今日は土曜日で休みという事もあり、正和さんとのんびり過ごしていた。  彼は五時から仕事で家を出ると言うので、かなり早めだが四時半に一緒に夕飯を食べる。いつも通り彼の手料理は美味しくて、幸せな気持ちでいたら、来訪を知らせるチャイムが鳴った。  出かける前とあり慌ただしい正和さんに代わってインターホンに出ると、そこには芳文さんがいて、思わず眉を顰める。  正和さんと代わると、二人は軽く話をしていたが、正和さんはすぐに仕事に行くため家を出ていって、芳文さんと俺が残された。  気まずいなあ、なんて思ったら、彼はケーキの箱を見せて「食べない?」と聞いてくる。  そんなこんなで何故か芳文さんとケーキを食べる事になり、美味しいケーキを食べてご機嫌でいたら話しかけられた。 「純くんって、ケーキ以外も甘いもの食べる?」 「えっと……はい。甘いものは結構何でも好きです」 「凄く美味しいシュークリームのお店があるんだけど知ってる?」  そう言って見せられたのはお昼のワイドショーで紹介されていたお店で、食べてみたいと思っていたものだった。 「知ってます! それ一日五十個限定で、開店前に並んでもなかなか買えないっていう」 「そうそう。あそこ知り合いがやってるんだ。今度持って来るね」  そんな調子でいつの間にか距離が縮まって、色々な話をして、椅子からソファーに移動した。  好きな事を聞かれて、ゲームや裁縫、手芸が好きだということを話すと、彼は楽しそうに喋る。 「俺も手芸好きなんだ! フェルトでマスコット作ったり、レース編みも楽しいよね」 「あ、俺もそれ好きです。フェルト縫い合わせて作るのも好きだし羊毛フェルトでやるのも可愛いのできますよね」 「そうそう。動物とか、食品系のとか、車とか作るの好き」 「食品系作るの俺も好きです。凝ったのとか作ると達成感あるし。まあ最近やってないんですけど」 「そうなの? あ、いつも兄さんといるからそんな時間ないかー」  そう言って彼はタブレット端末で手芸用品のカタログを見せてくる。

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