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第260話

 正和さんを真ん中に三人で眠り、朝起きるとこの間と同じように後ろから芳文さんに抱きつかれていた。腕を解こうとするが、なかなか離れない。 「んー……」 「芳文さん、起きてください」  手に力を入れて離そうとすると、抱き枕のように足まで絡められて身動きがとれなくなってしまう。 (……まあ、いいや)  この間は凄く嫌だったけど、今は仲良くなったせいかそんなに嫌ではなかった。むしろ温かい体温に少し安心する。 「純くん」 「っ……!」  耳元で名前を呼ばれ肩がビクッと揺れた。寝起きとは思えないはっきりした声。 「起きてるならどいてください」 「え~、純くん冷たい」  腕を解こうとすると芳文さん自ら離してくれた。 「んー、お腹空いたー」  そう言って起き上がると部屋を出て行く。俺も大きく伸びをしてから部屋を出た。  朝食はサンドイッチで、食べ終わると芳文さんと正和さんはずっと話をしていて、芳文さんはお昼近くになって帰っていった。来週も少し楽しみだ。 「じゅーん」 「っ……!」  後ろから抱きつかれて息をのむ。 「やっと二人になれた」  そう言って首筋に唇を押し当てる。 「丸と四角……どっち好き?」 「え、何で?」 「良いから。どっち好き?」  突然の質問にどっちが好きか考える。 「んー、丸かなぁ」 「丸か……いいね、丸」  正和さんが意味ありげに呟いて背筋が凍る。こんな話し方をするのは大抵良からぬ事を考えている時だ。 「お、俺、勉強してくる」 「今じゃなくて良いでしょ」  逃がさないようにぎゅっと抱き締められて身動ぐ。 「学年末テスト八十点以上とらなきゃだし」 「……ふーん? そんなに今しなきゃなんないんだ? なら俺が教えてあげるよ」 「っ……」 (や、やばい……だって絶対変な事考えてるじゃん! 明日学校なのに、やだよ、俺。誰かーーっ) 「準備してくるから、純も用意して待っててね」  そう言ってリビングを出て行く。 (い、いや、準備って何の……?)  俺は勉強道具だけど、教えるのに何を準備するんだ。そもそもそんな勉強したいわけじゃないし。  とりあえず用意しておかないと正和さんが怖いので、部屋に教科書やノート等を取りに行く。  筆記用具を持ってリビングに戻ると、正和さんはすでに待っていた。テーブルの上に置いてあるものを見てぎょっとする。 「純の好きな丸、たくさん持ってきたよ」  そう言って少年のようなあどけない笑みを浮かべるが、置いてあるのは卑猥な玩具ばかり。思わず後退りすると腕を掴まれた。 「どこ行くの?」 「い、いや、だってそれ……勉強に必要ないんじゃ」 「うん? 勉強するのは純でしょ」 「え……?」 「俺は違う事がしたいし。心配しなくてもちゃんと勉強も教えてあげるよ」  そう言って正和さんは微笑んだ。

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