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第263話
下半身がだるい。腰が痛い。全身重い。
目が覚めたのは十五時で、おそらく二時間ほど眠っていたのだろう。起きた時には体は綺麗になっており、正和さんの部屋のベッドに寝かせられていた。
サイドテーブルに水のペットボトルが置いてあるが、それを飲む為に起き上がるのさえだるい。でも喉は渇いている。
「あ、目覚めた? ……お昼食べる?」
部屋に入ってきた正和さんが聞いてくるが目を瞑る。
「純、返事くらいしてよ」
そう言って髪を梳くように頭を撫でてくる。彼とは反対側を見ながら、重い瞼をほんの少しだけ上げた。
「……正和さん嫌い」
「っ……じゅーん、何でそんな事言うの」
彼は咎めるようにそう言って、額から頭にかけて撫でる。
「……なんかもうやだ。俺なんも悪い事してないのに……なんで、あんな……っ、ぅっ、ひっく」
「ごめんね、純。俺が悪かったよ。許して」
触れてくる正和さんの手を避けるように離れると彼は大きなため息をつく。
「悪かったって。ごめんね」
「やだ、うっうぅ……嫌い、正和さん嫌いっ」
「……純。あまりそういう事言うと俺も怒るよ」
正和さんは強い口調でそう言って、俺のことを威圧する。
(また、そうやって)
「ひっく、っ……って」
「何?」
俺ばかり責められる。俺は悪くないのに。俺の時はなかなか許してくれないくせに。
「……怒るなら、怒れば?」
彼の眉毛がピクリと動く。
「純……」
「ぅっ、うっ……っ」
困ったように名を呼んで、掛け布団の上から腹部をポンポンと撫でる。
「……ごめんね。夕飯の時間になったら呼ぶからそれまで寝てて」
そう言って部屋を出て行った。
鼻をスンスン鳴らして泣き止もうとするが涙が次から次へと溢れて止まらない。布団を頭から被ると再び睡魔が襲ってきて、泣きながら眠りについた。
*
頬を撫でられる感触に目を覚ます。
「ん……」
「純、ご飯できてるよ」
彼から顔を背けるとため息をつくのが聞こえた。
「まだ怒ってるの? そろそろ機嫌直しなよ」
「……あんな事しといてよく言えるよね」
「悪かったって言ってるでしょ。……純はどうしたいわけ?」
どうしたいと言われてもそんなの分からない。あんな苦しいだけの行為を強要されて、抗えば怒られる。何で毎回そんなことをされなきゃならないのか。
そんな事を思ったら彼が嫌になってきた。
「……分かった。じゃあしばらく一人で考えなよ」
そう言った声は少し冷たい。いや、そう感じただけでいつも通りだったのかもしれない。
「とりあえず、片づけたいからご飯食べちゃって」
ベッドに腰掛けていた彼は立ち上がり、部屋を出て行った。
その後は、お互い無言で夕飯を食べた。寝るときはいつものように彼の部屋で一緒にベッドに入るが、くっついてはこない。
正和さんと別れたいかと聞かれればそういうわけじゃないし、彼のことが本気で嫌いなわけでもない。ただ本当は、ああやって言っても全部受け流して、優しく抱き締めて欲しかったのかもしれない。
ゆっくり目を閉じる。明日は学校があるから早く寝なきゃ、そう思うのになかなか寝付けなかった。
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