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第264話

 朝になっていつも通り朝食とお弁当を作ってくれていた正和さん。なんだか分からないけどモヤモヤする。  朝ご飯を食べて学校へ行く用意を終えると、お弁当の入った袋を渡されて、無言で受け取って鞄にしまった。 「帰り何時になる?」 「……四時くらい」 「そう……いってらっしゃい」 「いってきます」  いつもは玄関まで見送ってくれるが、今日はリビングでそんなやり取りをして、正和さんは部屋に戻った。  もらったばかりのキラキラ光る指輪が眩しくて手をかける。だが、なんとなく外す事はできなくてそのまま家を出た。 「おはよー」 「……おはよ」 「あれ、元気ない? なんかあった?」  いつもの待ち合わせ場所に着くと既に拓人が待っていて、心配そうに聞いてくる。 「元気だよ」 「でも顔色悪くね?」 「まあ、色々あって……」 「あー、喧嘩でもした?」  喧嘩、と言えばそうなのだろうか。ちょっと違う気もするが似たようなものだろう。 「まあ、そんな感じ」 「ふーん。珍しいじゃん、純が喧嘩なんて」  話なら聞くよ、なんてニヤニヤしながら言ってくる。心配半分、面白半分で言っているのだろう。 「俺も……よくわかんないや」 「うわー、暗っ。ガチで悩んでる感じ? 聞くよ?」  聞くよ、と言われてもどこから話したものか。いや、まあ男同士で今更恥ずかしがる事でもないかもしれない。 「……あの人、ドSじゃん? そんで、なんていうか……普段は優しいし、良いんだけど……」 「あー、エッチの時辛いって?」 「っ……えっと、うん、いや……普段はまあ良いんだけど、たまに全く情を感じないと言うか……道具みたいに扱われてる気がして……」 (道具……そっか、エッチの道具か)  何で嫌だったのか、自分の口からポロッと出た事に納得する。 「あー、道具はさすがにな……」 「それで、なんか嫌になって、嫌いって何度か言ったら――」 「え、何度も言ったの?」 「あ……うん」  驚いたように聞いてくる拓人に頷く。 「それまずいっしょ」 「……やばい?」 「いや、まあ……うん。それで?」 (やばい……のか?)  続きを促してくる拓人に、昨日あった事、思った事を掻い摘まんで話しする。 「それで何か言ったの?」 「いや……何も言わなかったら、しばらく一人で考えなって……」 「――――」 「ヤなこと強要されて拒否したら怒るし、なんかもう……わけわかんないし疲れた」  学校について、靴を上履きに履き替える。 「……てかそれ、思ってる事ちゃんと伝えてる?」 「え……いや、全部は言えてない……あの人怖いし」  靴を下駄箱にしまい、そう答えたら、拓人は何故かため息をつく。 「言わないから駄目なんじゃねーの? 嫌いとか余計な事言う前に思ってること伝えねーと」 「あー、まあ、確かに。……でも俺、悪くねーし」

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