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第265話

「いや、悪くないのは分かるけど、……ハッキリ自分の思ってること言えば少しは変わるかもよ?」 (そう、かなあ……)  でも正和さんのことを否定的に言うと怒るし。俺話すの下手だし。 「んー、ありがと。伝えてみるよ」  言えるタイミングがあれば、だけど。 「おう」 (……たぶん言えない)  休み明けの授業は物凄いだるい。  昨日の夜、寝付くのが遅かったせいもあり、五時間目は途中で寝てしまいチャイムで目が覚めた。六時間目は真面目にノートをとって、HRの後は特に用事もないので帰宅する。  玄関を開けると普段見かけない靴が一足あった。リビングに入って控えめな声で「ただいま」と挨拶すると、以前正和さんの店で会った零夜さんがいた。 「あ、こんにちは」 「こんにちは。ごめんね、もうすぐ帰るから」  そう言って仕事の打ち合わせなのか、書類に視線を落とす。正和さんはチラリとこちらを見て、彼との話に戻った。  自室に行き、荷物を置いて制服を脱ぐ。ズボンのポケットからスマホを出すとランプがピカピカ光っていた。  制服をハンガーに掛けて部屋着に着替える。 「ふぅ……」  スマホを手にベッドの端に腰掛ける。 『これとかどう? 純くん好きそうだなーって思ったんだけど』  一つの画像と共に芳文さんからチャットのメッセージが届いていた。 「……可愛い」  写真はフェルトで作るスイーツの見本だ。 『いいですね! 作り方とか載ってます?』  てか、こういう女子が好きそうなの好きだと思われてんのかな、俺。いや、まあ可愛いし、これは好きだけど。そのうち、可愛いぬいぐるみのとか送られてきそー、なんて思って苦笑する。 『載ってるよ~。この本も今度持ってくね』  芳文さんからすぐに返事があり、確認して画面を切る。と、またバイブと共にランプが光った。 『兄さんと何かあった?』 (え……)  心臓がドキリと跳ねる。何故知っているのだろう。 『何かって、何がですか?』  返事をドキドキしながら待つ。二十秒程で返ってきたが、その間がとても長く感じた。 『あ、兄さんからしばらく来るなって電話来たからさ。何かあったのかなーって』 (あー、正和さんが電話したのか。びっくりした) 『色々あって、今ちょっと気まずいだけです。大丈夫ですよー』 『俺が帰った後だよね……もしかして俺のせいだったりする?』 『そんな事ないですよ!』 『090-××××-××××。俺の電話番号』 (えっと……どうしろと? かけろって事かな……)  すぐに返事をしなかったからか、少し慌てた様子のメッセージが届く。 『あ、別に無理に電話してとかじゃないから! 良かったら登録しといてー』  芳文さんって可愛いなあ、なんて。大人の男性に可愛いと言う表現はおかしいかもしれないが、正和さんが可愛がっている気持ちも分かる気がする。 『080-××××-××××。これ俺の番号』 『ありがとー!』  少しの間を置いてメッセージが届く。 『……今かけていい?』

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