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第267話
『……今かけていい?』
(え、今?)
どうしよう、なんて思っていたら芳文さんからの着信がくる。マナーモードにしている為、バイブがヴヴヴッと鳴った。少し躊躇ったが電話に出る。
「……もしもし?」
「あ、純くん? ごめんね突然」
「いえ……」
「純くん本当に平気? 兄さん怒ると凄い怖いからさー、心配で」
以前、わざと俺が怒られるように悪戯した人がそんな事を言うなんて、ちょっと笑ってしまいそうになる。
「全然大丈夫ですよー。ほんと大したことじゃないんで」
「そう?」
「はい、俺が悪いんで……。ちゃんと仲直りして芳文さん来れるよう言っときます」
「純くん悪いって……兄さんに何かしたの?」
「いや……えっと……」
変な疑いをかけられても困るので、事の経緯を簡単に話すと、予想外の返事が返ってきた。
「それは兄さんが悪い。純くん全然悪くないよ!」
「そうですかね……」
「そうだよ!」
兄の事が大好きな芳文さんの事だから、そんな風に俺の味方になってくれるとは思わなかったので少し驚く。
「純くん悪くないのに、わざわざ謝る必要ないからね」
「あーでも土曜日」
「この前みたいに押し掛けるから大丈夫!」
電話越しでも彼が悪戯な笑みを浮かべているのが分かる。
「だから純くんのペースでね」
「……ありがとうございます」
「それじゃ何かあればいつでも電話して~」
電話が切れた後、電話帳に芳文さんの番号を登録する。そろそろ零夜さんも帰っただろうか。
眠いけど今寝たら夜寝られない気がするので、明日の学校の用意をしてお弁当箱を洗いに行く事にした。
「ちょっと出かけてくるね。一時間くらいで戻るから」
「あ、うん」
リビングに入る所でばったり会った正和さんに話しかけられて頷く。
その後も食事は作ってくれるし、一緒のベッドで眠ったり、ちょっとした会話はするもののなんとなく気まずいまま数日過ごした。
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