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第268話

 芳文さんは、俺は悪くないと言ったが、ずっとこのままでいるわけにもいかない。やっぱり一度きちんと話をする必要がある。 「……正和さん」  木曜日の夜、ベッドに入る前に彼を呼び止める。 「んー?」 「……嫌いって言って、ごめんなさい」 「……うん」  話をすると言ってもどこから話せば良いのだろう。彼にどう伝えたら良いかわからなくて言葉に詰まる。 「おいで」  正和さんはベッドに腰掛けて、近くに来るよう促すので、俺はそれに従って彼の隣に座った。 「純は何が嫌なの?」 「……えっちの……道具みたいに扱われるのが、凄い嫌だった」 「そんな風にしたつもりないけど、そう感じたならごめんね」  そう言って背中を撫でてくる。その手付きがとても優しくて思っていた事がすんなり口から出た。 「……俺が何かした時は、なかなか許してくれないのに……俺がヤなことは強要してくるし、拒否すると怒られるし……」  背中に触れる彼の指先がピクリと動く。 「正和さんのこと、本気で嫌いになったわけじゃなくて……ただ、俺ばっか責められて……なんか、嫌になった」  頭をよしよしと撫でられる。 「……俺、前ほど怒らないでしょ? だから今みたいに思った事ちゃんと話して」  言ってくれなきゃ分かんないよ、と額にキスを落とされた。 「それに大好きな純のこと、道具として扱った事は一度もないよ」 「…………」 「ごめんね、他も善処するよ。……俺に意地悪されて泣いちゃう純が可愛くて、ついつい酷い事したくなっちゃうんだ」  好きな子にしかしたくならないよ、なんて言って俺の事を抱き寄せる。 「……零夜がさ、純は俺に甘い関係を求めてるって言ってたんだけどどう思う?」 「っ……」 「……え、純?」 (何でそんな事を……?)  俺、そんなの一言も言ってないし。 「かーわい。顔真っ赤」 「……気のせいじゃない?」  顔を隠すように反対側を向くが、手を掴まれて引っ張られた。結局、正和さんから顔は逸らせず、そのままキスされる。 「甘いってどんな? 純はどーして欲しい?」 「いや、知らないし。……別に今まで通りで良いんじゃないの」 「ふーん?」 (え……俺、正和さんのこの返し嫌い)  こんな時、絶対良くない事考えてるし。 「……何?」 「今まで通りって事はやっぱいじめられんの好きなんだなーって」 「なっ……」 「違うの?」 「違うよ!」 (……やっぱり正和さん嫌い)  なーんて、本当は大好きだけど。でも変態を大人しくさせる方法か、上手な扱い方を誰か教えてほしい。

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