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第271話
「兄さんおかえり~。純くん手芸好きなんだって!」
「へー」
「みてみて! これ作ったの!」
なんかもう訳が分からない。仕事から帰った正和さんと芳文さんが会話するのが遠くで聞こえる。
「あ、何その顔ー」
「いやー、なんか女子みたい」
「むう。あ、それで明日純くん借りていー?」
(……俺、芳文さんとキスした……)
「は? 何で?」
「一緒に手芸用品見に行こうかなあって。兄さんどうせ興味ないんでしょ?」
「うん、全く」
(どうしよう……)
「そんな兄さんと行ってもつまんないし。だから純くん借りるね?」
「あー、はいはい。純の事いじめたら怒るからな」
「いじめたりしないってば!」
「……純は?」
話の対象が俺になりドキリとする。ぐるぐる考えていたら中心はおさまったが、正和さんの前に行きづらい。
「まだ部屋でやってるよ~。兄さんはお風呂入ってきたら?」
「ん。お風呂上がったら寝るから、区切り良いとこで片付けるよう言っといて」
「はーい」
とりあえず顔を合わせずに済むことにホッとする。少しして部屋の扉が開き、芳文さんがにっこり笑った。
「明日お出かけしていいって~」
「…………」
「さっきの事は二人だけの秘密」
耳元でそう言って息を吹きかけられて、腰がゾクリと震えた。耳を押さえて彼から距離をとる。
「っ……それ、やだ」
「ふふ、純くん耳弱いよね。かーわい」
好きだよ、と抱き締めてこようとした手を払う。
「……俺、芳文さんの気持ちには答えられません」
「――――」
「ごめんなさい」
頭をぺこりと下げるが、彼はクスッと笑って俺の腰に手を回し、見下ろした。
「知ってるよ。だから強引に明日デートに誘ったの」
「え……」
「純くん俺の事そういう意味で少し好きでしょ?」
「……友達としては好きですけど変な意味なんて」
「ほんとに?」
「本当です」
まあいいや、なんて言って腰をグッと引き寄せて、耳にキスをしてくる。
「明日、楽しみだね」
「っ……」
「大丈夫。本当に出かけるだけで俺からは何もしないし怖がらないで」
頭を優しく撫でて、体を離される。
「さ、片付けよ~。兄さんに怒られちゃう」
なんて、散らかった部屋を片付け始めた芳文さんを手伝い、お風呂から上がった正和さんと三人でベッドに入る。
(明日、どうしよう……)
不安でいっぱいになりながら眠りについた。
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