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第272話

* * * 「こっちのも美味しいよ」  マンゴーパフェを食べる芳文さんは、スプーンで掬って俺の口元に差し出してくる。 「い、いいです。大丈夫です」 「ほら、あーん」  そう言って唇をスプーンでつついてくるものだから仕方なく口をあける。 「美味しい?」 「……美味しいです」 「じゃあ純くんのも頂戴」  そう言われてストロベリーパフェを差し出す。 「えー。俺もあーんしてよ~」 「や、嫌ですよ。自分で食べてください」 「ん~、じゃあ純くんの口からもらお~」  「っ……」  テーブルを挟んで向かい合って座る芳文さんが身を乗り出して来たので、慌ててスプーンで掬って口に運ぶ。 「ん、美味しい」  朝、家を出てからずっとこんな調子で、恥ずかしくて変な気分になってくる。だが、体に触れてきたりといった昨夜心配していた事は何も起こらず安心した。 「じゃあ、そろそろ手芸屋さん見て帰ろっか」 「はい」  今日は気になっていたドーナツ屋さんに行って、ゲームを買いに行き、お昼はオムライスセットとパフェを食べた。芳文さんが無駄に甘えてくるという事を除けば、普通の友達同士だ。  糸と飾りのビーズを買って帰宅する。 「兄さん、ただいま~」 「おかえり。……そんなに何買ったの?」 「ゲームとドーナツだよ~。純くんゲーム好きなんだって」 「ふーん」

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