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第274話

 日曜日は芳文さんと出かけて帰った後、少しだけ一緒にゲームをした。そして、月曜、火曜は普通に学校へ行っていたのだが、今日は何故か芳文さんが学校へ来ている。  もっと詳しく言うと、水曜日の今日、放課後になると芳文さんが校門の前に立っていた。美形で身長が高い上にスタイルも良く、ふんわりした優しげな雰囲気で、近所の女性の注目を浴びている。 (俺に用……だよな……)  拓人は部活で今日は一人だし、あまり行きたくない。だが、帰らない訳にも行かない。  下駄箱で靴を履き替えて校門に向かって歩くと、俺の姿を見つけた芳文さんが微笑んで手を振ってくる。 (色んな意味で嫌だ……)  目立つ芳文に手を振られれば、振られた俺も注目を浴びる。 「学校までわざわざどうしたんですか?」 「デートしようかなあって思って」 「っ……正和さんに――」 「許可とってきた」 (え……) 「純くんと遊びたいから迎え行ってくるーって。俺がいれば変な目にも合わないし安心でしょ」 (いやいやいや。……いやいやいやいや)  一緒にいたら変な目に合いそうな要注意人物は芳文さんだ。 「この前言ってたパンケーキの店行こ~」 (……まあ、出かけるだけなら良いか)  パンケーキ好きだし。芳文さんも友達としては好きだし。 「良いですね。行きましょう」  夕方、帰宅ラッシュとあって電車の中は人で溢れ返っている。ぎゅうぎゅう詰めの電車に無理やり乗り込んでひと息つくが、身動きがとれない。 「大丈夫?」  ドアに背をくっつけて立つ俺の両脇に手をついて、守るようにしてくる芳文さん。 「だ、大丈夫です……」  先ほどより周りに余裕ができるが、顔が近いし芳文さんに包まれているみたいで落ち着かない。 「こっち側しばらく開かないから楽にしてて」  そう言って優しく微笑むものだから、胸がドキッとした。ドキドキと早まる鼓動を隠すように下を向く。  最近気づいた。俺、優しくされるのには弱い。普段正和さんが意地悪ばかりしてくるせいなのか、優しくされると凄いときめいてしまって。調子が狂う。  電車に乗って十五分、駅から徒歩三分の所に位置するパンケーキ屋さん。店内はやはりと言うべきか、女性客で賑わっていた。  生クリームのたっぷりかかったパンケーキを食べて、特に寄る所もなく帰宅する。 「ただいま」 「おかえり」  帰ると正和さんが出迎えてくれて、芳文さんとは玄関でお別れする。

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