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第281話

「ふーん」 「……何ですか?」 「いやー、そんなに兄さんの事好きだと困っちゃうよね」 「え、俺……」  顔を赤くして、バッと口を押さえると芳文さんが笑った。 「ううん、全部顔に書いてあるし」 「っ……」  俺ってそんなにわかりやすいのだろうか。 「もっと、すんなり行くと思ったんだけどなあ」  長期戦になりそ……、なんて呟いてベッドに顔を埋め、手でぐしゃっとシーツを握った。 「でもそんな一途な純くんも好き」  そう言って、隣にぴったりくっついてくる。 「……芳文さんは……俺のどこが良いんですか?」  前から気になっていた事。兄に近づくな、と嫌がらせをしてきていたのに、何で急に好意を寄せてきたのか謎だ。 「んー、見た目は超タイプだよ~? 少し色素の薄い髪とか目とか、白い肌とか、可愛い顔してるし、スタイルも良いし。兄さんの彼女だって聞かされてなかったらたぶん一目惚れしてたかな」  芳文さんはそう言いながら顔を上げる。俯せのまま顔だけこちらを向き、組んだ腕に頭を乗せた。 「意地悪しても健気に耐えてたとことか可愛いし。それを意地悪してる本人に、つらいですって告白してきたり。……行動がいちいち可愛い」  俺の髪の毛を指先でくるくると弄びながら、楽しそうに話す芳文さん。 「可愛い子にあんな態度とられちゃったら、好きになっちゃうでしょ、普通。避けるなり怒るなりしてくれれば良かったのに」 (だって正和さんの弟だし……) 「気強そうなのに懐くと甘えてくるとことか、可愛い。ちゃんと気遣いもできるし、凄く優しいし。……流されやすいのに、一途で中々落ちない所とか」 「…………」 「純くんといられるなら、兄さんに嫌われても良いって思うくらい好きだよ」  体を起こして顔を近づけてくる芳文さんの唇を慌てて手で塞ぐ。 「~~っ。手、邪魔なんだけど」 「変なことしないでください……!」 「変な事じゃなくてキス」 (だから! それが変な事なんだってば!) 「正和さん以外とできません」  ぐぐっと芳文さんの顔を押すと、あっさり諦めてベッドに仰向けで転がった。 「あーあ、俺の彼女だったらな~。そういうとこも可愛いのに」 「……芳文さんってゲイなんですか?」 「いや? どっちもいけるよ……って言っても自分から好きになった男の子は、純くんが初めてだけど」 「そうなんですか……」  兄のこと大好きな芳文さんが、その兄に嫌われても良いと思っている、と言うことはかなり本気だと言う事なんだろうか。  そうだとしたら、これからどうしたら良いんだろう。  はあ、とため息をつくと同時に部屋の扉が開いて正和さんが入ってきた。彼はお風呂に入っていたらしく、彼の髪は濡れている。

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