286 / 494
第286話
「あ、芳文来たみたいだね」
来客を知らせるチャイムが鳴り、正和さんが鞄を持って玄関へ行くので後をついて行く。
「お邪魔しまーす」
「……最初、毎週は来ないって言ってなかったっけ?」
「え~、そうだっけ」
少し冗談めかして言う正和さんに、とぼけたように返す芳文さん。少し会話した後、正和さんは靴を履く。
「じゃあ、行ってくるね。たぶん二時か三時になるから先寝てて」
「ん。行ってらっしゃい」
「兄さん行ってらっしゃーい」
パタン、と扉が閉まり芳文さんと二人っきりになる。
正和さんが仕事に行った後は、いつものように甘いものを食べて一緒にゲームをした。特に意味のない雑談をしながら、通信して闘う。
「わー、負けた」
「やった!」
ゲームを始めてから三時間ほど経ち、何度か闘っているが、初めて芳文さんに勝つ事ができて少し嬉しい。
「んー、ちょっと休憩……お風呂入ってくる」
そう言って芳文さんは部屋を出て行った。ゲーム機を片付けて、彼がお風呂に入っている間、ベッドに転がってのんびりする。
「純くんお風呂はー?」
「あ、入りました」
しばらくして部屋に戻ってきた芳文さん。
「そろそろ寝る?」
ベッドに腰掛けてそう聞いてきた彼にコクリと頷く。
「電気消すよー」
芳文さんはそう言って明かりを消し、ベッドに転がった。いつも兄の正和さんにするのと同じように抱きついてきて、少し戸惑う。
仰向けだった体は横に向かされて、芳文さんに背を預ける形で抱きしめられた。
「んー良い匂い。本当可愛い」
「……離してください」
「純くんってモテるでしょ~」
首もとに顔を埋めて、ぎゅっと抱き締めてくる芳文さんに離すよう言うが、聞き入れてくれる気はないらしい。諦めて体の力を抜くと、彼も腕の力を緩めた。
「いや全然……芳文さんはモテますよね」
「えーそうかなー」
なんて、否定はしないからやはりモテるのだろう。ちょっと羨ましい。
「……イケメンで、背も高くて、優しくて、話もしやすいし。周りがほっとかないですよね」
「でも純くんに好きになってもらえなきゃ意味ないし」
「……変な事言わないでください」
「酷いなあ。本気なのに」
そう言って、かぷ、かぷ、と首筋を甘噛みしてくる。
「っ……やめて、ください」
手を後ろに回して芳文さんの顔を押さえると、その手を握られたが、すぐにやめてくれた。
「彼氏以外の男と二人っきりなのに、一緒のベッドって無防備過ぎない?」
「……いや、だって正和さんの弟だし」
「弟じゃなくて男として見て欲しいんだけどなー」
そう言って俺から離れたので仰向けになると、芳文さんは俺の上に跨がった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




