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第286話

「あ、芳文来たみたいだね」  来客を知らせるチャイムが鳴り、正和さんが鞄を持って玄関へ行くので後をついて行く。 「お邪魔しまーす」 「……最初、毎週は来ないって言ってなかったっけ?」 「え~、そうだっけ」  少し冗談めかして言う正和さんに、とぼけたように返す芳文さん。少し会話した後、正和さんは靴を履く。 「じゃあ、行ってくるね。たぶん二時か三時になるから先寝てて」 「ん。行ってらっしゃい」 「兄さん行ってらっしゃーい」  パタン、と扉が閉まり芳文さんと二人っきりになる。  正和さんが仕事に行った後は、いつものように甘いものを食べて一緒にゲームをした。特に意味のない雑談をしながら、通信して闘う。 「わー、負けた」 「やった!」  ゲームを始めてから三時間ほど経ち、何度か闘っているが、初めて芳文さんに勝つ事ができて少し嬉しい。 「んー、ちょっと休憩……お風呂入ってくる」  そう言って芳文さんは部屋を出て行った。ゲーム機を片付けて、彼がお風呂に入っている間、ベッドに転がってのんびりする。 「純くんお風呂はー?」 「あ、入りました」  しばらくして部屋に戻ってきた芳文さん。 「そろそろ寝る?」  ベッドに腰掛けてそう聞いてきた彼にコクリと頷く。 「電気消すよー」  芳文さんはそう言って明かりを消し、ベッドに転がった。いつも兄の正和さんにするのと同じように抱きついてきて、少し戸惑う。  仰向けだった体は横に向かされて、芳文さんに背を預ける形で抱きしめられた。 「んー良い匂い。本当可愛い」 「……離してください」 「純くんってモテるでしょ~」  首もとに顔を埋めて、ぎゅっと抱き締めてくる芳文さんに離すよう言うが、聞き入れてくれる気はないらしい。諦めて体の力を抜くと、彼も腕の力を緩めた。 「いや全然……芳文さんはモテますよね」 「えーそうかなー」  なんて、否定はしないからやはりモテるのだろう。ちょっと羨ましい。 「……イケメンで、背も高くて、優しくて、話もしやすいし。周りがほっとかないですよね」 「でも純くんに好きになってもらえなきゃ意味ないし」 「……変な事言わないでください」 「酷いなあ。本気なのに」  そう言って、かぷ、かぷ、と首筋を甘噛みしてくる。 「っ……やめて、ください」  手を後ろに回して芳文さんの顔を押さえると、その手を握られたが、すぐにやめてくれた。 「彼氏以外の男と二人っきりなのに、一緒のベッドって無防備過ぎない?」 「……いや、だって正和さんの弟だし」 「弟じゃなくて男として見て欲しいんだけどなー」  そう言って俺から離れたので仰向けになると、芳文さんは俺の上に跨がった。

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