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第287話

「俺に襲われるかも……とか考えないの?」  俺の両手首をベッドへ縫い付けるようにぎゅっと押さえられる。普段の甘ったるく響く声と違って、少し低めの声音に動揺して瞳が揺れた。  心臓がドクンと高鳴って、ドキドキし始める。 「……冗談はやめてください」 「冗談じゃないって言ったら?」  真っ直ぐ射抜くように見てくる芳文さんの真剣な眼差し。体が強張って動かない。 「お兄さんに、嫌われますよ……?」 「構わないよ」  震える声で警告するが、全く気にする様子はなく顔を近づけてくる。逃れるように横を向くと、舌が耳の中にちゅるりと入ってきて、温かい吐息がかかり、ゾクリと震えた。 「はっ……や、め……っ」  押さえつけられた手を押し返すが、体格差と不利な体勢のせいで、ピクリともしない。 「この前キスしたのに俺のこと避けないなんて……こうなるの期待してた?」  弱い耳元で囁くように言われると、痺れたようにジンジンする。 「期待なんか、してなっ……」  丁寧に耳朶を舐められて体が火照る。抜け出そうと身動ぐが、吐息は震えて下腹部に熱が溜まった。 「だめ……やめてください」 「好きだって言ってるのに一緒に寝るなんて、こうなるの想像つくんじゃない?」 「そんなの……ぁっ」  耳を舐めるのをやめて、押さえつけていた手を一纏めにし片手で押さえられる。もう片方の手で顎を軽く掴まれて、芳文さんの唇が俺のそれに重なった。  歯列をなぞり上顎をくすぐって舌を絡め取る。 「んっ、ん、はぁ」  漏れる吐息さえ逃さないような深いキスに、呼吸もままならず目には涙が滲んだ。じわじわと少しずつ攻めてくる芳文さんに、抵抗の気持ちも溶かされていく。 「はぁ、ん……んっ」  唇が離れて目が合うと、芳文さんは自分の唇を舐めるような仕草をする。 「えろ……その顔、ゾクッてくる」 「やめて……怒られますっ」 「どーせ、兄さんの時も体からだったんでしょ?」  そう言って再び重なった唇。抵抗する力も入らず、口腔を蹂躙された。腕を押さえている方と反対の手を下におろし、ズボンの中に侵入させてくる。 「ん、んんっ」  下着越しにさわさわと撫でられて、敏感な部分を擦られれば、否応無しに反応し始めた。 「っ、や……芳文さん、やめ、こんなこと……っ」  本気で煽ってくる手に焦りを感じて再び抵抗を強める。体を捩ったり腕を押し返したり、足をばたつかせたりするがまるで効果がない。  欲情して熱のこもった彼の視線に背筋が凍る。

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