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第295話

 学校では拓人に相談しようか悩んだが、結局やめた。授業が終わり、帰りの支度をしながら窓の外を見ると、校門の近くに芳文さんが立っているのが見える。 「ごめん、今日用事があるから一緒に帰れない」  部活が休みの拓人に軽く謝れば、いつもの通り特に気にした様子もなく返される。 「彼氏とどっか行くのー?」 「正和さんじゃなくて……その、弟さんと……」  後ろめたい気持ちがあるせいで、少し声が小さくなったかもしれない。 「あーあの囲まれてる人?」  指差した彼につられて、再び窓の外に目を向ける。見た目の派手なお姉さん方に話しかけられて、嫌そうな態度を取る芳文さん。  遠くからでも分かるくらいだから、相当嫌なのだろう。 「うん、そう」 「よく見えないけど、やっぱ兄弟だな」 「……何で?」 「いや、背高いし、美形っぽいし」  確かにな、なんて思ったが性格は全然違う。芳文さんは自分の気持ちに正直で、思った事は何でも態度に出すように思う。  それに対して正和さんは、俺に接する時はほとんど素でいるが、外では物腰柔らかくニコニコと対応している。あんなに愛想の良い彼が、本当は意地悪だなんて誰も想像しないだろう。 「たーくちゃん」 「っ……」  教室の入口から演劇部の西野先輩が顔を出して拓人の名を呼ぶ。ちょいちょいと指先を曲げて来るように促す彼を見て、呼ばれた本人は顔を引きつらせた。 「今日練習ないからちょっと付き合えよ」 「すみません。こいつと出かける予定なんでちょっと……」  そう言って俺の事を指差す拓人。拓人はこの先輩が苦手らしく、度々こうして口実にされる。 「……悪いけど、今日拓人の事借りていー?」  なんて、聞いてくる西野先輩。今日はこれから悩みの種である芳文さんと会うのだ。これ以上、面倒事には巻き込まれたくない。 「あ、全然。俺も今日用事あるんで」 「……拓ちゃん出かけるんじゃなかったんだ?」 「おい、純っ……!」 「また明日!」 (ごめん、拓人!)  教室を出て階段を降りる。靴に履き替えて校舎を出ると、先程いた女性達はいなくなっていた。校門に寄りかかる芳文さんは、コーヒーショップに寄ったのか、手には二つのカップを持っている。 「じゅーんくん。お疲れ」  近くに行くと柔らかく微笑んで、片方のカップを渡してくれる。 「あ、ありがとうございます……」  中身はなんだろう、とストローの入ってる所を見るが、蓋が不透明なので分からない。 「ストロベリーショコララテ。純くん苺好きでしょ? 二月限定なんだって~」  そう言って、ニコニコ笑う。 「飲んで飲んで~」と急かされてストローを咥えた。  大好きな苺と程よい甘さのチョコレート。 (……美味しい)

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