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第299話

 夜景を見た後は、芳文さんと話をしながらドライブして、洋食屋で食事をした。  公園で後ろから抱き締められた時は不覚にもドキッとして、体が火照って胸がドキドキとして落ち着かなかった。  自分の気持ちがよく分からなくて、モヤモヤする。 「ごちそうさまでした」 「美味しかったね~」 「近くにあんな美味しい店があるの知らなかったです」 「純くんが気に入ってくれて良かった」  そう言いながら、家まで送ってくれる。  平気でキスしてきたりするような相手だから、何かしてくるかとも思った。だが、過剰に触れてくる事もなく、家について車を降りる。 「忘れ物しないでね」 「はい。今日はありがとうございました」 「こちらこそ」 「また土曜日ね」と帰っていく芳文さんを見送り家に入る。  正和さんはまだ帰っていないようで、靴がなかった。 (……疲れた)  歯を磨いて、シャワーを浴びる。ドキドキしていた胸も落ち着き、思考がクリアになると、正和さんに対しての罪悪感が増した。 (……なんかもうやだ、疲れた)  お風呂を出て髪の毛を乾かし、洗面所を出る。リビングの扉を開けると、正和さんが椅子に座っていた。 「……おかえり」 「ただいまー」  声をかけると、正和さんは立ち上がりぎゅっと抱きしめてくる。吐く息が少しお酒くさい。 「じゅーん。どこいたのー?」 「……お風呂だけど」 「可愛いね。何で今日そんなに可愛いの?」 (酔っ払ってるのか……?)  いつもより甘い声。甘えた口調で話す正和さん。話が微妙にかみ合わない。四ヶ月一緒にいるが、こんな彼は初めて見た。 「ねえ、純~。ベッド行こ?」 「……その前に着替えくらいしないとスーツがシワに」 「だめ? 優しくするよ? ……もしかして照れてるの? かーわい」  そう言って、ちゅっ、ちゅっ、と唇にキスを落としてくる。 「もっとキスしたい?」 「……正和さん」 「そんな可愛い顔で見つめてもだーめ。素直になりなよ」 (こういう時はどうすれば良いんだ?)  酔っ払った人の世話なんてしたことないから分からない。 (あ、確か水飲ませるんだっけ……? 水飲ませれば少しは落ち着く?) 「正和さん、ちょっと待ってて」  彼のことを椅子に座らせてキッチンへ行く。お風呂上がりで自分も喉が乾いているが、仕方ない。まずは彼の酔いを覚まさなくては。  冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出し、コップへ注ぐ。 「つかまえた。俺の可愛いお姫様」 「っ……」  突然後ろからぎゅっと抱き締めてくるものだから、水が少し零れた。

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