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第300話
「……正和さん酔いすぎ」
「酔ってないよ」
(どう見ても酔ってるし……)
「ほら、お水飲んだら?」
「えー……じゃあ飲ませて」
甘えてくる正和さんの方を向いて、コップを彼の口元に運ぶ。
「……口移し」
「は?」
「純の口移しが良いな~」
(なんなんだ、この人。……人って酔うとこんなになるの? それとも正和さんだけ?)
水を飲ませようと正和さんの口元にコップを近づけるが、飲む気は全くないらしく、顔を少し逸らす。
「――――」
仕方なく正和さんからコップを離し、自分の口元へ運ぶ。もちろん、口移しなんて恥ずかしい事はできないので、自分の喉を潤した。
「お風呂入ってきたら?」
「あ、純までそういうこと言うのー?」
「……何が?」
「佐々木がオフロ行きましょーって言うから、連れて行ったけどさー。俺は純が悲しむから行かないよ。純と一緒がいいの」
(……意味分からん)
銭湯くらいで悲しんだりしないし、好きに行ってくれば良いと思うけど。
(てか、連れてった……って、佐々木さん一人で可哀想じゃん)
「……分かったから。もう着替えて寝よ?」
「ふふ、やっとその気になった?」
そう言いながら、お尻をさわさわと撫でてくる彼の手を取り、部屋まで行ってパジャマを渡す。だが、正和さんはパジャマを受け取らず、スーツの上着を脱いで俺に渡した。
「……手伝って?」
「何で……?」
「奥さんが着替えの手伝いするの、あれ凄い良いなーって」
「――――」
「お願い。たまにはご褒美ちょーだい?」
甘えた口調でそう言う彼。ふざけているようには見えなかったから、コクリと頷いてスーツの上着を受け取りハンガーにかける。
彼のネクタイを両手で緩めれば、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ふふ、いつもありがとう」
「何が?」
「色々。一緒にいてくれて嬉しいし……いつも可愛くしててくれてありがとう」
彼のネクタイもハンガーにかける。後は自分で脱ぐだろう、と思ったが、正和さんは俺の手を掴んでベルトに触れされた。
「……別に、可愛くなんてしてないし」
少しだけ緊張しながら、ベルトを外してズボンを脱がせる。
「え~だって、手足の毛剃ったり、髪の毛耳にかけたり」
「っ、髪の毛は邪魔だから耳にかけてるだけで……! 」
「俺がその方が可愛いって言ったからでしょ? 可愛いよ、凄く。大好き」
「っ……」
「純のことどんどん好きになっちゃって、どうしよう」なんて言いながらパジャマを着る。
少し恥ずかしいけれど、ちゃんと見てくれているんだなぁ、と思ったら嬉しくなった。
「いつも俺に合わせてくれてありがとう。……純はもっとわがまま言っても良いんだよ?」
そう言って俺の頭を撫でる。
なんだか凄く、胸が痛い。
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