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第305話 (正和視点)
(純が、浮気……?)
血の気がサーッと引いていく。心臓は早鐘を打ち、呼吸がいつもより浅くなって、声が震える。
(浮気? 純が? 誰と? ……純が、俺以外と?)
いや、まさか。学校にいる時以外はずっと家にいるし、そんな時間はなかったはずだ。
(……それとも学校で? この前みたいに襲われたとか?)
いや、でも、襲われたとしたら「浮気した」なんて言わないか。
(じゃあ、何?)
純の言った事の意味が分からなくて、頭の中が混乱する。問い詰めようと口を開くが、先に沈黙を破ったのは純だった。
「芳文さんと、しました」
(……は?)
「芳文、と……?」
(芳文と? 芳文と純が浮気? ……何、言ってんの? え、何……じゃあ芳文が純と仲良くしてたのってそう言うこと? は? ……は? 何ふざけた事言ってんの? それで? ……俺より芳文が良いって?)
「っ……」
頭に血が上って、そのまま純を押し倒し、手をあげそうになる。だが、体は動かなかった。純は怯えた顔をして、声を震わせながら何度も「ごめんなさい」と繰り返す。
そんな純の姿を見て少し正気を取り戻した。首を絞めて殴っていたかもしれない自分にゾッとする。
(……ちょっと落ち着こう)
もしかしたら純の勘違いかもしれない。
「ちょっと待ってて」
今ここで怒ったらだめだ、と自分の気持ちを落ち着ける。とりあえずコーヒーでも飲んで冷静になろうとキッチンへ行くが、よろよろとカウンターに手をついた。
(芳文と純が浮気? 何で? 気があったから? 優しくされたから? 純から言い寄ったのか? セックスまで……したのか?)
「あー」
頭の中が問いでいっぱいになり、クラクラして無意識に額に手をあてた。目を閉じれば、純と芳文が仲良く話していた光景が浮かんで、すぐに目を開く。
芳文は相手に恋人がいたら、すぐに冷めるようなやつだった。今回は違ったのだろうか。
純だって浮気をするような子じゃない。健気で、一途で、俺の事が大好きで。それでいてお仕置きを怖がっているから、わざわざするとは思えなかった。
(何故……?)
珈琲を入れる気力もなくて、冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出す。冷たい飲み物が喉を通り、頭も少し冷静になった。
とりあえず、話を聞こう。何かの間違いかもしれない。いや、ただの勘違いであって欲しい。
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