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第309話
視線は逸らしたまま、酷く冷淡な口調で問いかけてくる彼。思わず体がピクリと震える。
「っ……なんでも、する」
こくこく、と首を縦に振り、縋るような声を上げれば、少しの間があって「なんでも、ね」と、俺の言葉を反芻した。
何をさせられるのか怖いが、許してもらえるなら何でもする。この気持ちに嘘はない。
「……わかった」
そう言って、彼はようやくこちらを向く。
「でも今回のことは許せるかどうか分からない。ちょっと考えさせて」
「っ……」
心臓がズキズキする。どうすれば良かったのかわからなくて、涙がポロポロ零れた。鼻をヒクヒクと震えさせて、しゃくり上げる。
「……純から全部話してくれたから許してあげようとは思うけど、すぐには許せないよ」
そう言って、組んでいた脚を下ろす。
「……それ、って」
(つまり……?)
すぐには、と言うことは、いずれ許してくれるんだろうか。
「うん、とりあえず許すよ。でも次はないし、完全に許した訳じゃないから」
厳しい口調でそう言って、彼は言葉を続ける。
「あまり俺のこと怒らせないでね」
冷たい声音と鋭い視線に、ゾクッとして背筋が凍る。
「まさ、かずさん……」
「返事は?」
「はいっ……二度と、しません」
彼は変わらず冷たい声で「おいで」と言って手を伸ばす。反射的にビクッと震えた肩をそっと抱き寄せて、俺の頭に手をおいた。ポンポンと宥めるように撫でて、濡れた頬を指で優しく拭ってくれる。
「……ちゃんと話してくれてありがとう」
彼の声は変わらず冷たいけれど、触れてくる指は優しくて温かい。少しだけ緊張も解けて、体の力が抜ける。
しかし、安堵したのも束の間。
「……でも悪いけど、今日は自分の部屋で寝れる?」
「っ……はい、ごめんなさい」
まるで突き放されたような心細さを覚えるが、素直に頷いて彼に従う。
「ごめんね。ちょっと一人にさせて」
そう言った声音は先程よりもずいぶんと優しい。背中に手を回したまま、ゆっくり立って、扉まで送ってくれる。
「おやすみ」
「……おやすみなさい」
パタリ、と閉じた扉をしばらく見つめて、涙をこらえるように唇をぎゅっと噛んだ。
大丈夫、大丈夫、と何度も自分に言い聞かせて、とぼとぼと廊下を歩き出す。
室内は暖房がかかっているから暖かいはずなのに、なんだか凄く寒く感じた。
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