310 / 494

第310話 (正和視点)

 涙をポロポロ零して必死に許しを請う純。とても辛そうな顔をするものだから、何も言えなくなってしまった。  純の誠意も伝わってくるし、してしまったことは今更どうすることもできない。猛省している純を、あれ以上責めても仕方がないので、許すことにした。  だからと言って、そう簡単に気持ちがおさまるわけでもなく。ベッドに仰向けで転がって、明かりを遮るように腕を顔へ乗せる。  深く息を吐き出せば、吐息と共に嫌な気持ちも少し抜ける気がした。 (芳文と純が、浮気……)  これからどうするかを考えなければならないのに、事実を受け止められなくて、眉間にシワを寄せる。  芳文からグイグイ攻められたというのは、二人の性格からしても嘘ではないだろう。 (……でも、何故?)  芳文が純を好きになったというのはどうも信じられない。会ったばかりの頃に純をいじめていたことを考えると、困らせようとしてやったという方がしっくりくる。まだあれから一ヶ月程しか経っていないし、二人が会った回数なんて十回にも満たない。  別れさせようとして、そこまでしたのだろうか。  いくら可愛い弟でも、これはさすがに許せない。 (……純も何で流されちゃったの)  俺の身内で強く断れないとは言っても、セックスまでするか普通。 (それとも、優しくてドキドキしたって言ってたから、流されたわけではないのか……?) 「あー、くそっ……」 (そういえば、ここでシたんだっけ)  弟と純のイチャイチャしている姿が頭に浮かんで、打ち消すようにバッと起き上がった。ベッドの端に腰掛けて頭をガシガシと掻く。 「……俺のベッドでしておいて、よく一緒に寝れるよな」  イライラする。チラッと時計に目を向ければ、既に二時を過ぎていた。一人になってから数時間が経つというのに、頭の中は何一つ整理できていない。 (……寝れない)  大きく深呼吸して立ち上がり、部屋を出る。静まり返った廊下の明かりをつけて、キッチンへと足を向けた。やたらと喉が渇いて仕方ない。  薄暗いリビングを通って、キッチンへ入ろうとした所で、ふと違和感を覚える。気配のある方へ目を向けると、そこにはソファで小さくうずくまる純の姿があった。 (純……)  胸がキューっと締め付けられるような感じがして、ズキンと痛む。 (いつからここに……? 部屋を出てからずっと?)  そんな事を思いながら、窓から入る光と感覚だけでキッチンの冷蔵庫まで歩く。水を飲リビングに戻ると、純は気づいていないのか寝ているのか、先程と同じ体勢のままだった。  しかし、近くまで来ると肩を震わせて静かに泣いているのがわかる。  ずっと、ここで泣いていたのだろうか。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!