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第310話 (正和視点)
涙をポロポロ零して必死に許しを請う純。とても辛そうな顔をするものだから、何も言えなくなってしまった。
純の誠意も伝わってくるし、してしまったことは今更どうすることもできない。猛省している純を、あれ以上責めても仕方がないので、許すことにした。
だからと言って、そう簡単に気持ちがおさまるわけでもなく。ベッドに仰向けで転がって、明かりを遮るように腕を顔へ乗せる。
深く息を吐き出せば、吐息と共に嫌な気持ちも少し抜ける気がした。
(芳文と純が、浮気……)
これからどうするかを考えなければならないのに、事実を受け止められなくて、眉間にシワを寄せる。
芳文からグイグイ攻められたというのは、二人の性格からしても嘘ではないだろう。
(……でも、何故?)
芳文が純を好きになったというのはどうも信じられない。会ったばかりの頃に純をいじめていたことを考えると、困らせようとしてやったという方がしっくりくる。まだあれから一ヶ月程しか経っていないし、二人が会った回数なんて十回にも満たない。
別れさせようとして、そこまでしたのだろうか。
いくら可愛い弟でも、これはさすがに許せない。
(……純も何で流されちゃったの)
俺の身内で強く断れないとは言っても、セックスまでするか普通。
(それとも、優しくてドキドキしたって言ってたから、流されたわけではないのか……?)
「あー、くそっ……」
(そういえば、ここでシたんだっけ)
弟と純のイチャイチャしている姿が頭に浮かんで、打ち消すようにバッと起き上がった。ベッドの端に腰掛けて頭をガシガシと掻く。
「……俺のベッドでしておいて、よく一緒に寝れるよな」
イライラする。チラッと時計に目を向ければ、既に二時を過ぎていた。一人になってから数時間が経つというのに、頭の中は何一つ整理できていない。
(……寝れない)
大きく深呼吸して立ち上がり、部屋を出る。静まり返った廊下の明かりをつけて、キッチンへと足を向けた。やたらと喉が渇いて仕方ない。
薄暗いリビングを通って、キッチンへ入ろうとした所で、ふと違和感を覚える。気配のある方へ目を向けると、そこにはソファで小さくうずくまる純の姿があった。
(純……)
胸がキューっと締め付けられるような感じがして、ズキンと痛む。
(いつからここに……? 部屋を出てからずっと?)
そんな事を思いながら、窓から入る光と感覚だけでキッチンの冷蔵庫まで歩く。水を飲リビングに戻ると、純は気づいていないのか寝ているのか、先程と同じ体勢のままだった。
しかし、近くまで来ると肩を震わせて静かに泣いているのがわかる。
ずっと、ここで泣いていたのだろうか。
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