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第311話 (正和視点)
「……こんなとこにいたの?」
俺が声をかければ、驚いたのか体をピクリと震わせた。
「ぅ、ひっく……うぅ」
「……ここ、寒いでしょ。風邪ひくよ」
暖房がかかっているとはいえ、夜は冷える。部屋の方が暖かいし、布団に入った方が良い。
純はゆっくり顔を上げてこちらを見る。廊下から漏れる光を頼りに表情を探れば、瞳いっぱいに涙をためて唇を噛んでいるのが窺えた。目元は腫れて少し赤くなっている。
「ぅ、っ……っ、っく……」
「……おいで」
指をぎゅっと握りしめて息を詰める純。腰にそっと手を回せば、眉尻を下げて目を見開く。
「一緒に寝よう。俺も少し落ち着いたから」
そう言えば、見開いた瞳から涙をポロポロ零して嗚咽を漏らした。俺の服をきゅっと掴んでゆっくり立ち上がる。
「正和、さん……」
泣いている純を落ち着けるように、背中をさすりながら部屋へと戻った。
俺がベッドに上がっても、立ち尽くしたまま動かない純。掛け布団を少し捲って呼べば、少し躊躇った後、そろりと入ってくる。
「泣きたいのは俺の方なんだけど」
「ごめん、なさ……っ」
いつまでも泣いている純を咎めるように言えば、おどおどしながら謝罪の言葉を口にした。
震える純を抱き締めて、一緒に横になると、純の体は冷え切っていて、氷のように冷たい。足を絡めて、温めるように体を密着させる。腕枕をして抱き寄せれば、純は小さく身じろいで、不安げな顔でこちらを覗いた。
「……何で許せないかわかる?」
「それ、は……俺が、最低なことしたから……」
的外れな答えに、思わず大きなため息をついてしまう。それを見た純が怯えた様子で体を揺らしたのが分かって、頭を優しく撫でる。
「……純のこと大好きだからだよ。純のこと好きだから、他の男とそういう事されると凄い不快なの。わかる?」
「わかり、ます……」
「純が俺の立場だったらどう思う?」
「すごく、嫌……です」
涙を堪えているのか肩を震わせて、小さな声で言葉を続ける。
「だから、話さなきゃ、って……おもって……っ」
鼻をスンスン鳴らして、声を押し殺して泣く純。宥めるように背中をぽんぽんと撫でて、疑問に思っていたことを尋ねる。
「なんでしちゃったの?」
「……さっき、話した通りで……芳文さんが」
「そうじゃなくて。理由を教えて。純はなんで受け入れちゃったの?」
「っ……」
「純なら何があっても絶対拒否すると思ったのに。……どうして?」
言うのを躊躇っている純に優しく問いかける。そうすれば、おどおどしながらも口を開いた。
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