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第318話
突然の言葉に口をぽかんと開けて固まる。正和さんはいったい何を言っているんだろう。
手を引かれてベッドの上で場所を移動すると、彼は芳文さんの足を広げて蕾をそっと撫でる。
「芳文のココ、慣らしてあげて」
「や、やだ……兄さん! ほんと悪かったって。お願い、許して」
焦った芳文さんが顔を真っ青にして謝っているが、正和さんは全く聞こえていないかのような素振りで、無視している。
「ほら、純。ちゃんと慣らしてあげないと初めては痛いよ?」
「やだ……」
(他人のこんなとこ……)
生理的に受け付けないし、正和さん以外の人とこういう行為をするのはもう嫌だ。
「ふーん? 俺はもっと嫌な思いしてるんだけどなあ」
「っ……」
「言うこと聞けないんだ?」
「だっ、て」
正和さんは俺が芳文さんとそういうことをしても、なんとも思わないのだろうか。そんな事をして、本当にプレイとして楽しむつもりなのだろうか。
「正和さん以外の人と……こんなこと、したくない」
震える声で自分の気持ちをはっきり伝える。
「そう言えば許されるとでも思ってるの?」
「ちが、う……そうじゃなくて……」
「……そう。じゃあ、純が約束守ってくれないなら、俺ももう純とはこういう事しない」
「え……」
(それって……『俺とは』って事は、他の人とはするんだろうか?)
「に、兄さん?」
正和さんがベッドを降りて、俺を一瞥すると扉の方へ歩いていく。縛られたままの芳文さんが慌てて声をかけるが、それには見向きもしない。
(……そんなの、嫌だ)
浮気した自分が言える立場じゃないけど、彼が他の人とするなんて絶対に嫌だ。考えただけで涙がボロボロ零れて止まらない。
「っ、ヒッく……いや、だ……行か、ないで」
「……じゃあ、やって? なんでもする約束だったでしょ?」
正和さんは扉に手を掛けたまま、顔だけこちらに向けると冷たく言った。
「っ……てか、なんで俺が下なの!」
芳文さんが声を荒げると、正和さんはようやく彼に目を向ける。兄に対して「僕」ではなく「俺」と言っているから、相当焦っているのだろう。
「だって二人が嫌な事しなきゃ、お仕置きにならないでしょ。……それに、純を抱いていいのは俺だけなんだから」
「っ……」
芳文さんは俺の名前が出てくると、息を呑んで固まってしまった。しばらくすると、唇をぎゅっと噛んで、苦虫を噛み潰したような顔をする。
(正和さん……)
彼の言葉を心の内で反芻し、手をぎゅっと握る。酷いことを言っていても、言葉の端々から彼の愛情が感じられるのは、俺の気のせいなんだろうか。
「どうするの、純」
俺次第だ、というような問いかけに、動揺して瞳が揺れる。
やりたくない。やりたくないけど、それがお仕置きだと言うなら、俺に選択肢はない。
「やる……やる、から……いかないで」
「……わかった」
彼は軽くため息をついて返事をすると、ドアノブから手を離し、こちらに戻ってきた。「うそだろ……」と呟いた芳文さんは、縛り付けられた腕をバタバタさせて抜け出そうと暴れるが、すぐに諦めたようだった。
「次、駄々こねたら行っちゃうからね」
そう言って、ベッドに上がると俺の頭をポンポンと撫でる。その時の彼の表情が少しだけ優しかったので、体の震えは自然と止まった。
言うことを聞かなかったら、きっと彼は本当に行ってしまう。それはどんなお仕置きよりも怖い。
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