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第321話

「っ……はぁ、ん」 「芳文が好きなの?」 「ちがっ……」 「じゃあ、純は誰が好きで誰のものなのか、ちゃんと言って。芳文に分からせてあげて」  そう言って、胸の先端をクニクニと優しく捏ねまわす。 「純は誰が好き?」  俺に好意を寄せている芳文さんに、この状況でそれを言えというのは、とても酷いと思った。だけど、悪いのは芳文さんだから仕方ない。 「……正和、さん」  絞り出すような小さな声でそう言えば、正和さんは俺の臀部を揉んで耳元で囁いた。 「俺のこと好きって、ちゃんと言って」 「っ……正和さんが、好き」  そう言えば、芳文さんは息を詰めて唇をぎゅっと噛み、眉尻が下がって瞳いっぱいに涙が溜まる。正和さんに掴まれた腰を再び動かされて、俺と芳文さんの甘ったるい喘ぎ声が部屋に響いた。 「ふふ、可愛い。もっと良くしてあげる」 「……っ!」  正和さんは指で俺の蕾を撫でた後、後ろから覆い被さって、俺の腰をグッと引き寄せる。ぴとりと押し当てられたソレは熱くて、後孔がひくりと疼いた。 「やっ、正和さん待って、待っ――」  俺が止めるのも聞かず、一息にズブリと入れられて甲高い声をあげる。まるで、全身に電気が駆け巡るような絶頂感。前も後ろもぐちゃぐちゃに気持ち良くて、どうにかなりそうだった。 「あっぁ、まさかず、さっ、あぁっ」 「ねえ、俺のこと好き? もっと言って?」 「はぁっぁ、好き、正和さんのこと、だいすき」 「……だって。聞いた、芳文? 純は俺のだから諦めなよ」 「っ、ぅっ、ぁ……にぃさ、ゆるし、て」  後ろから掻き回すように突かれて、同じように芳文の中も掻き回す。良いところばかりが擦られて、限界は疾うに超えていた。 「ひっあ、出ちゃ、う……っ」 「や、やだ、もう……っ、ごめ、なさい、だめっ、純く、お願っ、あっぁぁ」  行き過ぎた快感のせいなのか、もしくは現実逃避しているのか、意識が白濁としてくる。しかし、媚薬に侵された体は絶頂を迎えても尚、熱を帯びて刺激を求め続けた。 「え、あ、ちょ……純くん? はぁ、あっ、やだ、だめ」  中で高ぶって大きくなる俺に困惑する芳文さん。正和さんはグッと体重をかけて深く繋がると、意地悪げな声で弟に尋ねた。 「気分はどう? 芳文くん」  後ろにいる正和さんの顔は見えないが、きっといつものようにスーッと細めた目で聞いているに違いない。あえて「くん」付けする辺りも嫌味満載で正和さんらしい。 「兄さっ、ごめ、なさい」 「失恋した相手に処女奪われちゃったなぁ?」  そう言って、腰を揺さぶるように大きく動かし、掻き回す。芳文さんに対して、刺々しく浴びせる言葉の数々は、口調も内容も低俗で、いつもの正和さんからは想像ができない。  こんな風に平気で人を傷つけるような事をする今の正和さんは、……嫌いだ。 「許して、にぃさん」  しかし、こんな風にしてしまったのは、俺たちなのだから、それを咎める権利もない。早く――、早く終われ、そう思いながら、霞んでいた意識を手放した。

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