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第322話 (芳文視点)
痛い。聞きたくない。純くんが、俺じゃなくて兄さんの事が好きなのは、十分わかった。もう聞きたくない。
好きな人が嫌々俺の事を抱いている。それだけだって辛いのに、俺の上で腰を振りながら、兄さんの事が好きだと言う。耳を塞ぎたくても、腕が拘束されていたら、それもできない。
「あっぁ、だめ、正和さ」
「純、もっと言って」
「すき……っ、まさ、かずさっ、すき……あぁっ」
初めてなのに大して慣らしもせず入れられたお尻は痛くて辛いが、それ以上に胸が痛い。
「正和さっ、ごめんな、さい」
(っ……)
本当はこんな顔なんてさせたくなかった。泣いてる顔が見たかったわけじゃない。
楽しそうにゲームしたり、幸せそうな顔して食べたりする純くんが好きで、もっと色んなことを一緒にして、可愛い姿をもっともっと見たいと思った。純くんと付き合って、友達ではできないようなことをしたり、恋人にしか見せない顔を見たいと思った。
だからと言って、浮気なんて許されるはずがない。そんな事は分かっているし、もちろん全部俺が悪い。だけど、好きな気持ちを抑えることなんてできなかった。
「許して、にぃさん」
純くんが涙をポロポロ零しながら、意識を失い俺の胸に倒れ込む。だが、兄さんはすぐに体を起こして、そのまま俺の後孔から純くんが出ていった。
ぐったりした純くんは、俺の隣に寝かせられて、兄さんは俺の手の拘束を解いた後、汗で顔に張り付いた純くんの髪を梳く。
俺は自由になった腕で、泣いてる顔を隠すように覆って、兄さんとは反対側を向いた。
起き上がって服を着なきゃ、とか、兄さんに謝って今日はとりあえず帰らなきゃ、とか、やるべきことは分かってるのに、身体が動かない。起き上がる気力さえないのに、涙だけは次から次へと溢れて肩をヒクヒクと揺らす。
「っ、……ひっく」
「シャワー浴びてきたら?」
そう言った兄さんの声は冷たいが、先ほどの刺々しさはもうなかった。
「ぅ……っく」
しかし、涙をボロボロを零しながらしゃくり上げている俺は、口を開いたら声をあげて号泣してしまいそうで、返事をする余裕なんてなかった。涙を抑えるように深呼吸して、腕で目元をゴシゴシ擦る。
「ひっく、うぅ……っ」
「はぁ、しょうがないなー」
呆れたようにため息をついた兄さんが今どんな顔をしているのか見るのが怖い。怒った顔か、見放したような冷たい顔か、それとももっと恐い顔をしているのだろうか。
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