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第323話 (芳文視点)
「ひっく……っ」
声を抑えて静かに泣いていると、突然首と臀部に手を回されて、びくりと体を縮める。そのまま兄さんの肩に担がれて、驚いて固まっているうちに、浴室の床に下ろされた。
キュッと蛇口を捻ってシャワーを出す兄さん。水が温かい湯に変わるまで待つ間、兄さんは俺に背を向けたままで、どんな表情をしているのか想像したら、心臓がバクバクして血の気が引いた。
「お前でも純に手を出すのは許さないから」
そう言って振り返ると、俺の腹部を綺麗にするようにシャワーをかけた。表情こそ険しいものの、兄さんはこんな時でも優しい手付きで、丁寧に洗い流してくれる。
「また、来てもいい……?」
「……懲りてないの?」
「違う! 兄さんに会いに。……純くんは、もう……っ」
再び涙がツーっと頬を伝って、シャワーの水と一緒に流れ落ちる。
あんなに兄さんの事が好きって言われたら。お仕置き怖いくせに、自分から兄さんに打ち明けられたら。どんな仕置きよりも嫌われる方が嫌なんだとしたら。俺に勝ち目はない。
見開いた瞳からぽろ、ぽろ、と涙が勝手に零れ落ちて、泣きやみたいのにうまく泣きやむ事ができない。
「うっ、ひっく、うぅっ」
俺だって好きになりたくなかった。
兄さんにバレればこうなるのはわかっていたし、傷つけるような事はしたくなかった。純くんにあんな顔をさせたかったわけじゃない。本当に、ただ恋人として一緒にいたかった、それだけだ。
「……ごめん、なさい」
(ごめんね、純くん)
「――俺も悪かった。やりすぎたよ」
兄さんは軽くため息をついた後、そう言って優しく頭を撫でた。浴室を出てタオルで体を拭いてくれる。
「でも、しばらくはお前の顔は見たくない」
「…………」
「服着たら今日は帰って」
「わか、った……ごめんなさい」
俺は小さい声でそう言うのが精一杯だった。
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