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第335話

「おいで」 「え……」  ぽんぽんと膝の上を叩く正和さん。躊躇していたら、腕を引かれて膝の上に跨がせられる。向かい合って座る姿勢に、恥ずかしくなって顔を赤くしていたら、パンツを少しずらされて、背中側からするりと手を忍ばせてきた。 「ぁ、やだ……人来たら」 「大人しくしてればすぐおわるよ」  そう言って蕾を何かでつついたかと思ったら、それがそのまま中に押し込まれる。 「ぁっぁっ……」  ツルンと入ってくるそれはおそらくローターか何かなのだろう。それほど大きくはないが、異物感に顔を歪めた。 「失礼致します」  扉がスッと開いて、心臓がドキリと跳ね上がる。衣服は整えられているが、この体勢は凄く恥ずかしい。胸がドッドッドッと鳴り響いて、冷や汗をかくが、彼は全く気にする素振りがない。それどころか玩具のスイッチを入れて弄んでくるものだから、俺は彼にしがみついてしまう。 「っ、はぁ……っ」  オレンジジュースと酒をおいて店員が出ていくと、彼は再び服越しに臀部を撫で回した。 「ぁ、んん……正和、さん」 「……さん?」 「ぁ、違っ……ごめん、なさい……正和さま」 「ほんと学習しないね、純は」  そう言って玩具のスイッチを切る。 「ごめんなさい……ごめんなさい。許して、ください」 「怒ってないいよ」  膝の上から下ろされて、酒の入った瓶を渡された。 「ついで」  彼の持つグラスにトポトポとゆっくり注いで、瓶をそっとテーブルに戻す。 「お酒……飲むの?」 「だめなの?」 「だめじゃ、ないけど……車で来てたから」 「……代行呼ぶから」 「そっ、か」 (き、気まずい……)  彼はたいそう機嫌が悪く、先ほどから言葉にトゲがある。どうにかして彼の機嫌を取り戻したいが、下手なことをして余計に不機嫌にさせてしまうのは避けたい。何も話さない彼のグラスに再びお酒を注いで、そわそわしながらオレンジジュースを飲んだ。 「失礼致します」  スッと戸が開くとお盆を持った可愛らしい女の人が入ってくる。海鮮丼二つと刺身の盛り合わせがテーブルに並べられて、内心ほっとした。無言の彼といるのは気まずくて、何もしないでいるのは落ち着かなかったが、ご飯を食べている間は少しだけ気が紛れる。  店員が出て行って戸が閉まった後、手を合わせて食前の挨拶をしようとしたところで、制止するようにその手を掴まれた。 「脱いで」 「え……」 「聞こえなかった? 全部脱いで」  俺の手を離すと彼は座布団に手をついて『早く』と目で合図する。 「……ここ、で」 「うん、ここで」 「……誰か来たら」 「料理もきたし誰も来ないよ」  そう言って彼はお酒を煽り、見下したようにチラリと見る。 「言うこと聞けないの?」  ピリリとした彼の声音に、全身が強張って指先が震える。彼の言うことを聞かなかったら捨てられる、という意識が心の奥底にあって、本能的に恐怖を悟って体が震え上がるのだ。 「っ……」  何故こんなに彼の機嫌が悪いのだろう、と考えても、思い当たるのは芳文さんのマフラーの件だけだ。もっとも、今の彼を怒らせるのはその理由だけでも十分かもしれない。

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