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第338話

「ふっ、ぅ……あっあっあぁ、ごめんな、さい……あぁああん」 「じゅーん」 「やっ、だめっだめ、……ああう、ゆるし、ゆるしてください」  頭を左右に振りながら、涙をぽろぽろ零して堪えるが、耐えきれない。必死で許しを請う声も嬌声へ変わり、甲高い声で泣き立てる。 (だしたい、だしたい、苦しい)  張り詰めた自身は、尿道リングプラグにきゅうきゅうと締め付けられて腫れているし、行き場を失った熱は出口を求めて渦巻いた。はあ、はあ、と胸を喘がせて、朦朧とした頭で考えるが、何を考えていたのかさえ、分からなくなってくる。 「そんなに動いたらこぼれちゃうよ」 「ごめっなさ、はっ、ぅ、……も、やだ、やだぁ」 「……それなら、全部やめる? 俺との関係も」  そう言った彼の声音は冷ややかで、目を見開いて喉を震わせた。  今のつらい環境に、ほんの一瞬、彼の言う通り全部やめてしまおうか、とも思った。しかし、そうするには、考えがあまりにも短絡的だ。もう少し堪えてからでも遅くはない。 「っ……ごめんなさい、うっぅ、やめない……、やめたくない」  ごめんなさい、と何度も謝罪の言葉を繰り返せば、彼はため息をついて、俺の目元を指でそっと拭う。 「じゃあ、もう『やだ』は禁止。わかった?」 「わかっ、た」 「それから早くおねだりしてごらん」  そう言って座椅子の背もたれに寄りかかる。 「おれの……やらしい酒、のんで……はっ、ぅ、こぼれちゃうから、のんで、ください」 「うーん、もっと気の利いたこと言えない?」 「っ、ごめんなさい」  彼がどんな言葉を求めているのか、いくら考えても俺には分からなかった。いや、正解なんてないのかもしれない。今はただ、彼の憂さ晴らしの為に堪えるしかないのだろう。そうすることで彼の気が少しでも晴れるなら、それでも良い。 (いき、たい)  しかし、そうは言っても体は疾うに限界で、腰はびくん、びくん、と厭らしく跳ね上がり、真っ赤に腫れ上がった中心部はぶるぶると震える。 「まあ、いいや。飲むから動かないでね」  そう言うと、彼は舐めるように太ももに口づけて、温まった酒を啜る。ゴクリと喉を鳴らして、唇についた酒を舌でペロリと舐めとる様は、とても官能的だ。 「……あーあ、少し垂れてる」 「っ! ごめんなさいっ……ごめんな、さいっ……」  彼のコートにできたシミを見て、火照って赤らんでいた顔は一瞬にして青ざめる。 「そんなに謝らないで。俺がいじめてるみたいじゃない」 「……ごめん、なさい」 「まあ、飲み方が悪かったかな。……ほら、純も食べなよ」  そう言って、海鮮丼に箸を伸ばすと、いくらを口に詰め込んでくる。 「んぐ、ぁ、ぅ」 「美味しい?」  ニコニコしながら平然と聞いてくる彼が怖い。ふー、ふー、と荒い息をもらしながら、一生懸命喉に流し込んで頷くが、こんな状況では味なんて分からなかった。頭の中は、早く終わって欲しいと願うばかりだ。

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