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第340話

「……芳文とはここにも来た?」  内心ドキリッ、とするが、正直にコクリと頷いて返事をする。 「前に、一度だけ……」 「そっか」  彼はそう呟いたっきり何も言わずに、鉄柵の上で腕を組んでその上に顎を乗せた。そんな彼の後ろ姿と夜景を見ながら、どうして良いか分からず立ち尽くす。 「……昔は小さな公園になっててさ」  ポツリと話し始めた彼は、少し酔っているのか饒舌で、懐かしむように昔のことを俺に話す。 「子供の頃はここで芳文とよく遊んでたよ。この柵も昔はなくてさ、ダンボールで坂を滑ったりして遊んでた。……でも、ここ急だから怪我する人もたくさんいて、遊具は撤去、ただの広場になっちゃった。あの頃は芳文もそこまで俺にベッタリじゃなくて、他の友達とも仲が良かったんだ」 「……そう、なんだ」 「どうしてこうなっちゃったんだろうね」  遠くを見つめながら、ぽつりと呟いた彼は大きく息を吐き、腕に体重をかけて背中を丸めた。そんな彼の隣まで行って、鉄柵に軽く手を乗せる。そこは痛いくらいにひんやりとしていて、水でもかけたら氷柱(つらら)ができそうだ。 「……純はさ」  彼は何かを言いかけて、口を噤む。  何を言おうとしたのか、続きを聞こうと口を開けば、彼はそれを遮るように、柵から体を起こして言った。 「帰ろっか」  戸惑いながらも、小さく頷く。今の俺にはこれ以上聞く権利も、彼に逆らう権利もない。  すれ違いざまに手をきゅっと握られて、ゆっくり階段を下りる。彼の手はひんやりとしていたが、不思議と冷たくは感じなかった。  家について靴を脱ぐと、中の玩具が再びヴィーーーンと振動し始める。リングを付けられた自身は、限界を訴えるように、パンパンに腫れあがり、ズボンの中で窮屈そうに頭をもたげた。 「はぅ、痛い……ちんちん痛いぃ」 「かわいそうに」  ちっともそう思っていない口ぶりでそう言うと、彼はスリッパを履いて歩いて行ってしまう。 「服脱いでこっちにおいで」 「あぅぅ、う……っ」  床に蹲って、ニットとシャツをまとめて脱ぎ、ズボンと下着もおろして、彼の後ろをついて行く。向かった先は、今朝と同じお仕置き部屋。これからまた酷いことをされるんだ、と思ったら涙がじわりと浮かんでくる。 「そこに横になって」  彼の指示通りベッドに仰向けに転がれば、目隠しをそっと付けられる。

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