342 / 494
第342話
「ふぁ……」
いつの間にか意識を失っていたようだ。スマホのアラームで目を覚ます。記憶にないが、体は綺麗になっているし、彼の部屋まで運んでもらったらしい。微睡みの中、彼に優しく抱き締められて眠っていたのを漠然と覚えている。
しかし、深夜にまで及んだ激しい責め苦に体はクタクタだった。指一本動かすのでさえ億劫で、深呼吸してから重い体を持ち上げ、手探りでアラームを切る。
(腰痛い……力入んない……)
足を強張らせたせいか、脹ら脛にも筋肉痛のような痛みがあり、歩くだけでも大変だという事は想像に難くない。
(体育休も……)
そう思って、起き上がろうとした所で部屋の扉が開く。
「おはよう」
「……おはよう」
喉の痛みに違和感を覚えながら、挨拶を返すが、出た声は掠れていて自分の声ではない感じがした。
「もう少し寝てていいよ。朝ご飯できたら呼ぶから」
「ん……、シャワー浴びてくる」
ベッドを下りると、腰が抜けそうになるが、踏ん張って体勢を持ち直す。ぐーっと伸びをして、自分の部屋へ行き、制服と下着を抱えて浴室へ向かった。
* * *
「純……純……おーい」
「ん……」
拓人の声が聞こえて、意識がはっきりとしてくる。頭を上げると、呆れた様子の拓人の顔が、視界いっぱいに広がった。近すぎる距離感に思わず後ろに下がれば、椅子の脚がガタタッと音を立てて、クラスメイトの視線を浴びる。
「次移動だぞ」
「あ……ごめん、ノート写させて」
「いーけど。移動だから早く準備しろって」
ノートの写真を撮らせてもらって、筆記用具と教科書などをまとめる。教室を出ると、くしゅんっ、とくしゃみが出て、身震いし教科書をぎゅっと抱える。廊下は外と変わらないくらい寒い。
「授業中寝るなんて珍しいじゃん」
「んー、なんか眠くて」
「そっか。あ、そう言えばさっき、学年末の範囲言ってたよ」
「え、まじで? 何ページ?」
「ふっふーん……教えてほしい?」
そう言った拓人は得意げで、いつになく笑顔だ。
「教えて!」
「じゃあ俺に古典教えて?」
いつもなら交換条件でなくとも、その頼みには二つ返事で頷くが、正和さんとの関係が拗 れている今は、門限もあるしなかなか厳しい。
「――――」
「なんだよー、教えてくれないの?」
「いや、なんていうか……今あの人と喧嘩? っていうか、ちょっと怒らせちゃって、門限も四時だから……昼休みとかで良ければ」
「それは構わないけど……。怒らせた……って何やらかしたの?」
申し訳ない気持ちで、提案して可否を伺えば、彼は快く頷いた。そればかりか、心配そうに聞いてくる彼に、なんと答えたら良いか分からなくて黙り込んでしまう。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!




