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第350話
ゴクリと喉を鳴らして、管にジェルをつけ、それを鈴口に当てる。ここには今まで何度かプレイで入れているから、柔らかい素材のそれは、抵抗なくすんなり入れることができた。
「上手。じゃあここに針刺して、ここから通してごらん」
彼の説明によると、裏側の亀頭の根元辺りから針を刺して、そこからピアスで針を押し出すように、先ほど入れた管の中を進んで尿道口から通すらしい。
針を持つ手がカタカタと震え、言われた通りにやろうと思っても、うまく狙いを定めることができなくて、一度気持ちを落ち着ける。深呼吸を数回繰り返し、息を大きく吸って針先をぴたりと当てれば、玉がひゅんっと縮みあがった。
(大丈夫、大丈夫)
暗示をかけるように心の中で呟いて、できるだけそこを意識しないようにして手に力を込める。
次の瞬間、プチッと皮膚に穴があく感覚。そして、チクッと刺すような痛みに手が止まる。このまま針を押し進めるのが怖い。
「はっ、ぅぅ……っ」
ぐっと力を入れるが、あまりにも痛くて、ほとんど針が入っていかなかった。このままだと貫通するまでに何時間かかることだろう。涙をボロボロ零しながら過呼吸気味な息を整える。
「手伝ってあげる」
後ろから正和さんの手が伸びてきて、俺の手を包むように握られた。そのままググッと押し進められて、思わず背を仰け反らせるが、彼の胸にぶつかって身動きがとれない。
「いっ゛……あ゛、はぁ、いたぃぃ」
激しい痛みに口をハクハクさせて、目をぎゅっと瞑って脚を強張らせる。針がぐーっと入っていく感覚が怖くて涙が止まらない。
「ふっ、ぅ」
「……ほら、通ったよ」
カチャンとトレイの上に針が置かれる音がして、目を開けた。彼は、尿道口から飛び出たピアスの先に石の入った丸いキャッチをつけて、愛おしげにそこを撫でる。自分のそこにそんな物がついているなんて、信じられなくてパチパチと何度か瞬きした。
「痛い?」
「……だい、じょうぶ」
「本当は痛いでしょ? 正直に言っていいよ」
「じんじんして痛い……っ、うぅっ」
声を上げて泣けば、後ろからぎゅうっと抱き締められて、息を詰める。浮気する前は日に何度もしてくれていた優しい抱き方に、先ほどとは違う涙がじわりと浮かんだ。
「よく頑張ったね。……俺のことそんなに好きなんだ?」
「っ、すき、大好き」
「――……もうしないでね、次は許さないから」
そう言って触れてくる彼の手付きと言葉が優しい。これは許してくれるということなのだろうか。
「ねえ、前みたいに名前呼んで」
(前、みたいって……)
「正和、さん……?」
「うん。やっぱりその方がいいね」
彼は俺を包むようにぎゅっと抱き締めたまま、右手で左頬を撫でてくる。俺はじんじんと痛むピアスのついた所をボーッと見つめながら、彼の手にそっと自分の手を重ねた。
「いろいろ考えたんだけどさ、俺ももう少し優しくすれば良かったよね。……これからはできるだけ努力するよ。ごめんね、純」
「おれ、も……また信頼してもらえるように頑張る、から……」
抱く手に力を込められて、項にチュッとキスを落とされる。
「日曜日はデートしようか」
「デート……?」
「うん、午後からになっちゃうけど。いく?」
「……いきたい」
こくりと頷いて、嬉しくて赤くなった頬を隠すように俯けば、彼はクスリと笑って耳を撫でた。
「あと、ブレスレットの材料がやっぱり足りなくて……」
「じゃあ明日買いに行こうか。そのまま夕飯も食べに行こう」
「うん」
その後は何を話すでもなく、抱き締められたまま、しばらくぼんやりしていた。
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