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第351話

 夕方になると正和さんは夕飯の下拵えを始めたので、俺はリビングで拓人に送ってもらったノートの写真を自分のノートに書き写す。もうすぐ二年生が終わるせいか、最近は授業の進みが早い。一学期とかのんびり授業してるなら、もっとペース配分考えたら良いのに、なんて思いながら書き疲れた手をプラプラ振った。  ノートをパタンと閉じて部屋に戻り、鞄に入れれば、廊下から美味しそうな匂いがしてきて、自然と笑みが零れる。 「……手空いてる?」 「何か手伝う?」 「ワイン取ってきて」  手を洗ってから、ワインを見に行くが、たくさん並べてあってわからない。 「一番上の左から二番目。緑のラベルの白ワイン」 「はーい。……これ?」 「ありがとう」  彼に渡せば、海老や帆立などの魚貝類が焼かれたフライパンにジュワーと注ぐ。とても美味しそうだ。  お皿を並べ、彼が作った前菜などを取り分けて、テーブルへ運ぶ。ここ数日、品数が少なかったが、今日は前のように食卓にたくさん並んでいて思わず笑みが零れた。  食後は一休みした後、お風呂に入った。首輪も外してもらえたし、服も着せてもらえて、指輪も左手に付けてくれた。本当に恋人に戻れたんだ、と実感したら、なんだか泣きそうになった。 「寝るときは下履かない方がいいよ」 「え……?」 「そこ、勃つと擦れて痛いから」  ピアスをつけたとこを指差されて、納得する。確かに寝てる間に勃ったりしたら痛そうだ。言われた通りズボンと下着を脱いで布団に入る。 「おやすみ、純」 「おやすみなさい」  明かりを落として、腕枕をしながら、ぎゅっと抱きしめてくる彼の胸に顔を埋めた。 (……あったかい)  彼の腕の中は温かくてとても安心できるので、いつもならすぐに眠くなる。  だが、今日はつけたばかりのピアスの辺りがむずむずして仕方ない。痛みはないが、先の辺りが熱っぽい感じがして、意識すればするほど気になってしまう。このむず痒い感じは、焦らされているような変な気分だ。

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