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第353話

「あれ。純、帰んねーの? 門限四時とかいってなかったっけ。間に合うの?」  目の前の席の拓人が荷物をまとめて肩にかけると、こちらを振り返って不思議そうに首を傾げた。 「あ、今日は迎えに来てもらうから……外寒いし、ここで待ってる」 「そっか。んじゃ、俺は部活だから、また明日~」 「うん、部活頑張って」 「おう」  教室から出て行った拓人に手を振って、机の上で組んだ腕に顔を伏せる。 『いま仕事終わって帰るところだから、少し遅くなりそう。ごめんね。四時までには行くから学校で待ってて』  そんなメールが来たのは、帰りのHRの最中で、校庭をぼーっと見つめながら彼の迎えを待つ。三十分もあれば家まで歩いて帰れるが、外は寒いし、もしかしたら四時前に来るかもしれないので、大人しく彼の指示に従った。 (正和さん、お昼も仕事行ってるんだ……。普通の会社のほうかな? ……いくつも経営してたら大変なんだろうなぁ)  彼はそんな素振りを全く見せないけれど、俺が家にいる時はできるだけ一緒にいようとしてくれているから、日中はきっと忙しいのだろう。 「……あ!」  しばらくして校門の前に彼の白い車が停まったのを見つけて、ガバッと起き上がる。それとほぼ同時に着信を知らせて、ポケットに入れていたスマホが振動した。慌てて電話に出れば、彼の優しい声音が耳元に響いて、自然と口元が緩む。 「着いたよ。今どこにいる?」 「教室。すぐ行く!」 「わかった。待ってるね」  荷物を肩に掛けて、廊下を走って階段を駆け下りる。靴を履き替えて外に出れば、寒さに身を包まれて、コートを手繰り寄せずにはいられなかった。  足早に校門の方まで歩いていくと、ダークグレーのコートを着た正和さんが立っていた。彼の姿を見つけて思わず抱きつきたくなるが、学校の前で皆も見ているので我慢する。  コート姿の彼は、男の色気が滲み出ていて、いつにも増してかっこいい。下に着ているスーツが尚更そう見せるのか、俺とは違う大人な雰囲気に胸が高鳴った。 「お待たせ。遅くなってごめんね」 「お、お仕事お疲れさま」 「ありがとう。行こっか」 「うん」  微笑んだ彼に促されて、暖かい車内に乗り込むと、強張って震えていた体から力が抜ける。彼が隣に座ると、香水の匂いがふわっと香って、いつものことなのに、何故かドキドキして落ち着かない。

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