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第355話

「……正和さんは?」  必要なものも欲しいものもないので、首を横に振って聞き返すと、彼は少し考えたあと荷物を持った手で左側を指差した。 「じゃあ、あっちの店寄ってもいい?」 「うん。何買うの?」 「ちょっと見るだけ」  しばらく歩いて着いた場所は、ゲームをメインに取り扱っている店で、不思議に思いながら中に入る。彼は普段ゲームなんてしないのに、いったい何を見るのだろう。少し気になって辺りをキョロキョロ見回しながら、彼の視線の先も確認する。 「純のおすすめは?」 「えっ」 「なにか二人でできるやつないの?」 「えーっと……これとか?」  これは彼なりに俺に合わせようとしてくれているのだろうか。わざわざ合わせてくれるなんて少し申し訳ないような気もするが、大好きな彼が自分の好きなことに興味を持ってくれるのは嬉しい。 「のんびりしてて俺は好きだけど……、戦うやつならこっちとかも面白いよ」 「ふーん、いろいろあるんだ」 「え、それ、全部買うの!?」  俺が紹介したソフトをどんどんカゴに入れていく彼に、目を丸くして尋ねれば、彼は当然のように頷いて、店内をくるりと見回した。 「うん、本体はどれ?」 「これだけど……」 (本当に全部買うの?)  彼の大人買いはだいぶ見慣れたものだけど、こんなにたくさんのソフトをやる時間なんて、忙しい彼にはないだろう。思わず苦笑を漏らせば、彼が拗ねたように唇を尖らせた。 「なに?」 「なんでもない」  買い物をした後はショッピングモール内に入っていた適当な店で食事をして、遅くならないうちに家へ帰った。  お風呂に入ってから、買ってきたばかりのゲームを二人でしたが、彼は思っていた程強くなくて驚く。いつもなんでも簡単にやってしまう彼だから、圧倒的に負けると思っていたのだ。  けれど、彼は普段やらないのに勝敗は同じくらいだったので、負かされるのも時間の問題かもしれない。 「そろそろ寝よっか」 「うん」 「あ、消毒するからおいで」  ピアスをつけた箇所はだいぶ良くなっていて、出血も完全に止まり、消毒液がしみることもなくなった。じんじんと疼く感じも昨日ほどではなく、これならゆっくり眠れそうだ。 「おやすみ」 「おやすみなさい」  彼の腕に包まれて、ゆっくり瞼を下ろせば、今日のデートを思い出して、幸せな気持ちになる。週末のデートも楽しみだな、なんて思いながら眠りについた。

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