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第356話 (正和視点)

(大人だからな、これくらい許せる。これくらい……)  そう思うのに気分は沈んでいく一方で、仕事も全く手に着かない。携帯電話を手にとって、電話帳から相談相手を探して通話ボタンを押す。呼び出してすぐに出た相手に驚きつつ、手が空いているのがわかってホッとした。 「零夜、お前暇だろ。ちょっとうち来いよ」 『はぁ~? なんでだよ』 「いいから」 『ヤだよ、めんどくさい』 「っ……ちょっと相談したいことあるから来てよ」 『……ははーん、お前弱ってんな』  思わず本音を漏らせば、電話越しでもニヤニヤしているのがわかって、相談相手を間違えたかな、と頭を抱える。しかし、純のことを知っていて、なんでも話せる相手なんて他にいない。 「うるさい。別に弱ってるわけじゃ――」 『いいよ、行ってやるよ。とうとう純くんに愛想つかされた?』 「…………」 『え、図星? まじ?』 「そんなんじゃないから。やっぱこなくていいよ」 『ごめん、ごめん。行くから待ってろって』  電話を切ろうとしたら、間髪いれずに謝ってきて、向こうから通話を切られた。  しばらくして来た零夜をリビングに迎え入れて、事の経緯を全て話せば、感心したように呟く。 「浮気するようには見えなかったけど……あの子もやるね」 「やるねってお前……」 「だから優しくしてやれって言ったじゃん」 「…………」 「てか、それ、お仕置き通り越して、ただのいじめだろ……。せめて、セーフワードくらい与えてやれよ」  そう言って、ソファの背もたれに腕を広げて偉そうな態度をとる。 「いやいや、仕置きでセーフワードって」 「でもやりすぎて病院まで行ったんだろ。だめじゃん」  零夜の言葉は正論で、何も言えなくなってしまう。純が倒れた時は、本当に焦ったし血の気が引いた。なんともなかったから良かったものの、もしそのまま目を覚まさなかったら、と考えるだけでも恐ろしい。

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