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第357話 (正和視点)

「悪気はなかったんだし、反省してるんだろ? 許してやれよ」 「もう仲直りはしたし……一応」  注射でさえ苦手な純が、あんな所にそれ以上の太さのピアスをつけるなんて、どうせできるわけがないと思っていたが、涙を零しながら震える手で頑張っていた。そんな姿を見せられたら許すしかないじゃないか。  純とはこの先もずっと一緒にいたいと思っているし、いつまでも腹を立てていても仕方ないというのもある。  だが、正直なところ、まだ純のことを許せてはいない。 「でも、そんな簡単に許せるわけ――」 「じゃあ、仕返しすればいいじゃん」 「……仕返し?」 「可愛い子紹介してあげようか? 慰めてくれるよ」  そう言って、携帯電話をひらひらさせる零夜を見て、大きなため息をつく。 「……真面目に相談した俺が馬鹿だった」 「冗談だって。まあ、許す気持ちがあるなら、時間が解決してくれるの待つしかないんじゃないの」  先ほどとは打って変わって、真剣な声音でそう言われ、唇を噛む。確かにその通りなのだが、それではかなり時間がかかるから、こうして相談しているのだ。 「ただいま。……あ、こんにちは」 「ふふ、お邪魔してます」  学校から帰ってきてペコリと頭を下げる純に、零夜は軽く手を振って小声で俺に話しかける。 「なんなら俺が押し倒そうか? それで純くんが拒否ればお前も安心するだろ」 「は? ふざけんな。もう帰れよ。結局からかいに来ただけだろ」 「えー、本気で心配してるのに。もしかして自信ないの?」  自信なんてあるわけない。あの時、芳文にキスされそうになっても俺に助けを求めなかった純は、軽くトラウマだ。 「いいから。純も帰ってきたし、お前ももう帰れ」 「うわあ、ひっでぇ」 「はいはい、相談乗ってくれてありがとう」 「全然思ってないだろ。……まあ、いいけど。あんまいじめすぎんなよ~」  そう言って、ソファから立ち上がると、リビングを出て行く。 「あ、土曜日来るよな?」 「ああ、早めに行く予定。五時に面接するから、部屋綺麗にしといて」 「りょーかい。んじゃ」  零夜が帰った後は、途中で放棄していた仕事を片付けて、夕飯の下拵えを始める。これから純にどう接していくべきか考えると、滅入ってきて、思わずため息をついてしまう。 (……仕返し、ね)  確かに純と同じことをすれば、この腹立たしさや悲しさは消えるかもしれない。だが、そんなことをしても虚しくなるのは目に見えている。 「……疲れた」  何も考えたくなくて、煮物用の人参を飾り切りしながら、料理をすることに専念した。

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