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第359話

「俺も、一緒に入っていい……?」 「え……あー、うん。たまには一緒に入ろうか」  いつもと違って歯切れが悪く、それを誤魔化すようにニコリと笑って頭を撫でてくる。 (そんなわけ……ない)  疑いたくないのに、じくりと胸が痛んで、嫌な感情が胸の内をドロドロと渦巻き、気持ちが悪い。 「……大丈夫?」 「な、なにが?」 「なんか疲れてるみたいだから」 「え……、全然。大丈夫だよ。正和さんこそお仕事お疲れさま」 「ありがとう」  その後は、特に変わった様子もなく普段通りに接してくれるので、俺も考えないようにして一緒に夕飯を食べた。正和さんほど料理は上手くないけれど、美味しいと言って全部食べてくれるので、また作ろうという気になれる。 「……チョコも、食べる?」 「ああ、バレンタインだから? せっかくだから、もらおうかな」  冷蔵庫から夕方作った生チョコを取り出して、彼のところへ持って行くと、彼は驚いた顔をする。 「純が作ったの?」 「そうだけど……」  少し照れくさくて、顔を赤くしながらコクリと頷けば、彼は楽しそうに目を細めて口を開けた。 「食べさせて」 「あ、じゃあフォークを――」  キッチンの方へ足を向ければ、腕をパシッと掴まれて、椅子に座らせられる。 「手で食べさせて?」  彼の言葉に戸惑いつつ、切り分けてある生チョコを一つ手に取って、彼の口元へ運ぶ。ドキドキして手が震えてしまうのが、少し恥ずかしい。 「あーんって言ってやってほしいなあ」 「あ、あーん……っ」  彼の要望通りそう言って手を伸ばすと、指ごとぱくりと食べられた。驚いて手を引き抜こうとすれば、彼はそのまま手首を握って、指先についたチョコを拭うように舐めとる。 「っ……ふっ、ぁ……ちょっと!」 「ふふ、ごちそうさま。美味しかったよ」 「っ……残りはどうする?」 「明日食べてもいい? 今日はもうお腹いっぱい」 「じゃあ冷蔵庫しまっておくね」  彼と一緒にテーブルを片付けた後、今日作ったマフラーを取りに行く。丁寧に畳んでおいたそれをそっと掬って、彼の部屋へ戻った。色は彼のコートより少し明るめのグレーで、ラッピングも何もしていないけれど、完成度はまあまあ高い……と思う。 「マフラー作ったんだけど……いる?」  自信がなくて控えめに言えば、彼は近くまで来て覗き込む。 「この前買った毛糸で作ったの?」

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