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第360話

「うん。……その、いらなかったら俺使うし」 「器用だね。いるに決まってるでしょ」  そう言って、俺の手からマフラーを取り自分の首に巻きつけた。 「うん、肌触りもいいね。早速明日のデートに着けていこうかな。ありがとう」  正和さんは嬉しそうに笑って、俺の頭をポンポンと撫でる。心なしか彼の頬がほんのり赤くなっていて俺も嬉しくなった。作った甲斐がある。 「良かった。コートの色に合わせたんだ」 「うん、これならどの服にも合わせやすそうだし、毎日つけられるね」 「毎日……?」 「うん、毎日。大事に使うね」  彼はマフラーを首から外すと、丁寧に畳んで机の上に置いた。 「明日はデートだし、そろそろ寝よっか。午前中は書類片付けてていい?」 「うん」  ベッドに入るとぎゅっと抱き締められる。いつも通りに接してくる彼に、今日の違和感は気のせいだったのだろうと結論づけた。きっと疲れていたし、お風呂だって一人で入りたかったのだろう。  いや、浮気した俺と入りたくなかっただけかもしれない。確かにそんなことがあった後なら俺も少し距離を置くだろう。  それなのに、ちゃんと優しくしてくれる彼を疑うなんて最低だ。明日のデートも彼に負担をかけないようにしよう、そう意気込んで、気遣いのイメージトレーニングをしながら眠りについた。  今日は日曜日。二人で朝食をとったあと、正和さんは仕事を始めたので、俺は学年末テストに向けて勉強していた。  一年生の頃よりもだいぶ成績が落ちているので焦りもあるが、借金の返済で大変だったから、と言い訳をしても仕方がない。なんとか学年十位以内に入らなくては――。 「純、あけるよー」  トントンとノックの音が響いた後、部屋の扉が開けられた。彼は既に出かける格好をしていて、車の鍵を片手にこちらへ歩いてくる。 「キリのいいとこで終わりにして。お昼食べに行こう」 「うん、すぐ着替える」  参考書をパタンと閉じて立ち上がると、彼は部屋を出て行った。おそらく車のエンジンをかけて、温めておいてくれるのだろう。俺はクローゼットから適当な服を選んで着替え、髪の毛を簡単にセットしてコートを羽織る。  急いで玄関まで行けば、彼もちょうど外から戻ってきた所で、扉を開けたまま俺が靴を履くのを待った。 「用意できた?」  正和さんが首を傾げるとそれに合わせてマフラーが揺れる。昨日プレゼントしたそれが彼の首元に巻かれているのを見ると、なんだか少し照れくさい。だが、コートの色とも合っているし、正和さん自身にもよく似合っていて嬉しくなった。

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