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第361話

「どこ行くの?」 「何か食べたいものある?」 「うーん、とくに……」 「じゃあ、お昼は適当に済ませて、夜おいしいもの食べようか」  会話をしながら家を出て、車の助手席に乗り込めば、彼はカーナビを操作して地図をまじまじと見つめる。しばらくして目的地が見つかったのか、地図を元に戻すと車をゆっくり発進させて、普段は聴かないようなロックな音楽をかけた。 (正和さんもこういう曲、聴くんだ……しかもよく聴くと歌詞可愛い)  彼の聴くものに興味津々で耳を傾けつつ、どこへ出かけるのかも楽しみで、ソワソワしながら移り変わる外の景色を眺めていたら、手をキュッと握られる。ドキドキして彼の方を向けば、彼が楽しそうに微笑んだので、鼓動が速度を増して顔が熱く火照った。  お昼ご飯はカフェのような所で、サンドイッチとサラダを食べた。甘くて美味しいホットチョコを飲んで一息ついた後、そこから二十分ほど車を走らせて、老舗っぽい家具屋に入る。  店内はそう広くないのに、家具が綺麗に配置してあるから、狭くは感じなかった。奥に進むと、寝具の展示会をしているのか、たくさんのベッドと案内のボードが並べられている。 「どれが良いと思う?」  彼はベッドの前で立ち止まると、俺の方を振り返ってそう言った。 「ベッド……? 新しく買い換えるの?」  ベッドを買いに来るとは思っていなかったので、不思議に思って問えば、彼は少し不機嫌な表情で黙り込んでしまう。 (そっか、俺が芳文さんとあのベッドで――) 「あ……えっと」 「……うん。これからずっと純と暮らしてくでしょ? あれも古くなってきたし、一緒に選ぼうと思って」  そう言ってニコリと笑みを浮かべた彼は、何事もなかったかのように俺の言葉を流した。 「そうだ、他の家具も二人で選ぼうか。純はどういうのが好き? ……なんなら家も新しく建てる? 一緒に間取り考えるのも楽しそうだよね」 「いや、あの……えっと」 「……ふふ、とりあえずベッド選ぼう」  そう言って、さらに奥まで進み、ベッドを間近で検分する。 「俺はここがこうなってるやつより、こっちが良いな~」  正和さんは、一枚のパネルのようなヘッドボードを指差した後、格子状のものを指差す。だが、その部分の違いにこだわる理由なんてあるんだろうか。見栄えなら最初に指差した物のほうがフラットで良い気がする。 「俺はどっちでも良いけど……なんで?」 「そのほうが夜楽しめるでしょ」 「夜……?」  首を傾げて連想すれば、ベッドに腕などを縛り付けられた事を思い出して、顔が熱く真っ赤になった。

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