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第363話

「なんで? 気に入ったんでしょ?」 「でも、高すぎだし」  慌てて他のベッドを見比べてみれば、価格はどれも二百万から三百万円で、ぽかんと口を開けてしまう。 (ベッドってこんなにするものなの……?) 「純、寝るの好きでしょ? だから純が気に入ったやつにしようよ」 「だけど……」 「ふふ、その代わり学校卒業したら仕事たくさん手伝ってもらうから」 「え……あ、う……がんばり、ます」  彼はクスクス笑って店員に話しかけると、ベッドフレームとマットレスの注文をする。もしかしたら、フレームの方もすごく高かったのかもしれない。思わず身震いして、椅子に座っている正和さんの傍に行って、彼が記入している紙を恐る恐る覗き込んだ。 (う……わぁ……)  ああ、だめだ、クラクラする。 「どうぞ、お掛けください」 「あ、ありがとうございます」  これまた高そうなイスに腰掛けて、出された紅茶に砂糖とミルクを入れてチビチビ飲む。普段なら苦く感じる紅茶もあまり味がしなかった。 「今のベッドはどうするの……?」 「新しいの設置する時に処分してもらうよ」  そう言って、書き終えた紙を店員に渡し、控えを受け取って立ち上がる。 「よし、行こっか」  今度はどこへ行くのだろう。とんでもない額の買い物をしたからか、冬だと言うのに手汗が凄く、足元がふわふわして落ち着かない。 「大丈夫……?」 「うん、大丈夫……。これからどこ行くの?」 「ん~、純は行きたいところないの?」  予想外に聞き返されてしまい、行きたい場所を考える。普段ならいくつか出てくるのだが、改めて考えるとなかなか出てこない。 「……あ、ロールケーキ食べたい!」 「ロールケーキ?」  不思議そうに首を傾げた彼に頷いて、スマホでブックマークしておいた店を表示する。 「近くにあるカフェなんだけど、ロールケーキが凄い美味しいって聞いたから」

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