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第364話
「じゃあ行ってみようか」
優しく微笑んだ正和さんに手を握られて、胸が高鳴る。同棲しているのにデートは片手で数えられる程しかしていないから、こういう恋人っぽいことはドキドキして落ち着かない。それを知ってか知らずか、彼は優しくエスコートして、車の助手席のドアを開けてくれた。
「どの辺?」
隣に座ってシートベルトを締めた彼に、店の地図を表示したスマホを見せれば、すぐに理解したようで車を走らせる。
五分程で目的地について、店内に入るとそれなりに席は埋まっていて、賑わっていた。女性客が多く、正和さんの容姿が目立つせいか、たくさんの注目を集めて、少し恥ずかしくなってくる。当の本人はいつものことなのか涼しい顔だ。
「先に座っちゃおうか」
「うん」
入口のカウンターを通り越して空いていた真ん中の席に着く。なんだかあちこちから視線を感じてソワソワしてしまう。
「純は何飲む?」
「うーん……いちご」
メニューを見て少し悩むが、大好きな苺のラテを見つけて指差す。そしたら、なぜかクスッと笑われた。
「なんだよー」
何も面白いことは言ってないのに笑われて、少しムスッとして返せば彼はさらにクスクス笑った。
「ふふ、なんでもないよ」
「じゃあ、何で笑うの」
「だから何でもないって。可愛いなあって思っただけ」
そう言って、彼は注文しに席を立つ。並んでいる間もこちらに視線を絡めてくる彼に恥ずかしくなって、メニュー表で顔を隠した。心なしか女性客の視線も感じて辺りを見回す。容姿だけは無駄にレベルが高い正和さんを見るのは理解できるが、何故俺の方を見るのだろう。
(もしかして、俺もかっこいい? ……なんて。うそ。うそ。それはさすがに――)
「髪長いですね」
「えっ……あ、そう、ですね」
突然、女性に声をかけられて、吃りながら返事をする。
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