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第365話

「ここにはよく来るんですか?」 「いや、初めてですけど……ロールケーキが美味しいって聞いたんで……」 「そうなんですね~! 甘いものお好きなんですか?」 「あ、はい、まあ……」  高めの声で好意的に話しかけてくる彼女に圧されて会話を続けるが、この状況はいったいなんなのだろう。普段女性と会話することなんてないから戸惑ってしまう。 「私も好きなんです~。あ、フルーツタルトが美味しいケーキ屋さんがあるんですけど知ってます?」 「え、知らないです……この辺ですか?」 「一駅先なんですけど……良かったら今度そこで一緒にお茶でもしませんか?」  そう言ってニコリと微笑んだ彼女は可愛い。だけど、俺は正和さんと付き合っているし、その彼とのデート中だから困る。早いところ会話を終わらせなければ。 「えっと……あの」 「あ、突然過ぎますよね……ごめんなさい。でも他にも美味しい店あるんで、連絡先だけでも――」 「お待たせ。何話してるの?」  飲み物とロールケーキを乗せたお盆を手に戻ってきた彼が、ニコリと笑みを浮かべて俺たち二人を見る。 「この近くに美味しいケーキ屋さんがあるから今度お茶しないかって……」 「ふーん。……俺たち付き合ってるからごめんね」 「えっ、付き合ってるって……男、ですよね」  正和さんが彼女に向かってやんわり断りを入れれば、彼女は驚いた顔をして俺の方を向く。 「そうだよ? デート中だから二人きりにさせてくれると嬉しいな」 「うそ……あ、すみません」  ニコニコしながら言った彼の言葉に、彼女は複雑な表情を浮かべてぺこりと頭を下げると、自分が座っていた席に戻っていった。

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