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第369話
「純はトイレ行かなくて平気?」
「……うん」
「じゃあ行こっか」
カフェを出ると、外は夕焼け色に染まり、日が沈みかけていた。この時間帯はコートを着ていても肌寒い。急いで車に乗り込むが、車内の空気もひんやりしている。
「あ、そういえばブレスレットできたよ」
「ありがとう、帰ったらちょうだい」
優しく微笑んだ正和さんはゆっくりと車を発進させて、頭上についてるサンバイザーを少し下ろす。夕焼けが眩しいので、俺も同じように少し下ろした。
「船は何時から?」
「七時からだけど、三十分前に手続き済ませなきゃだから、六時半目標かな。今からだと早く着いちゃうから、景色見ながらゆっくり行こう」
「うん……俺、こんな格好だけど平気?」
「今日乗る船はドレスコードないよ。俺もこんなだし」
正和さんはクスッと笑ってそう言うと、俺の手を優しく握る。その手に俺のもう片方の手も重ねて、そっと撫でれば、くすぐったかったのか彼の指先がぴくりと動いた。
「正和さんって、車の免許いつとったの?」
「んー、十八の春かな。高校出てすぐ。なんで?」
「いや……俺も運転できたらいいなと思って」
「……免許とる?」
そう聞いてくる正和さんは、あまりいい気はしていないようで、顔を顰めている。
「あ、えっと……正和さんが嫌ならとらなくても……」
「うーん……嫌っていうか心配。まあ、とるだけとっとくのもいいかもね。身分証にもなるし」
「……うん」
「運転は俺と一緒の時だけっていう条件付きだけど。……誕生日、八月十二日だよね、次の夏休みにとったらいいんじゃない?」
そう言って、運転しながら俺のことをチラッと見る。
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