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第371話

 駐車場の階段を上がって少し歩くと、広場に出る。そこは全体がライトアップされていて、幻想的な世界が広がっていた。 「すごい……湖みたいだね」  ライトが細かく点いたり消えたりして、水面がキラキラしているみたいだ。 「ほら、純。写真撮ろう」 「えー」  そう言いながらもスマホを出して、イルミネーションを背景に腕を伸ばす。だが、普段自撮りなんてしない上に、正和さんと比べると腕が短いから、景色まで入れるのはなかなか難しい。 「貸して」  正和さんが俺の手から、スマホをするりと取り上げて、腕を伸ばした。腰をぎゅっと抱き寄せられて胸が高鳴り、頬が赤く染まったのと同時にシャッターをきられる。 「っ……」  暗いのとイルミネーションの光のおかげで、写真に写った顔は赤く見えないけれど、腰に回された腕を意識してしまって落ち着かない。今日はずっとドキドキしっぱなしで、なんだか変だ。 「純?」 「っ……なんでもない」  彼はクスクス笑って、再び手を繋ぐ。  他愛のない話をしながら、キラキラした景色の中を散策した後は、車で埠頭(ふとう)に向かった。 「急だったから乗合になっちゃったけど、窓際だから景色良いと思うよ」  乗船手続きを済ませてチケットをもらい、スタッフの案内に従って船の方へ移動する。  俺たちの席は二階だそうで、ワクワクしながら船に乗ると、中はテーブルがたくさん並んでいた。夜景が見えるようにか、落ち着いた雰囲気の照明で、なんだか緊張してしまう。  部屋の真ん中辺りにはピアノも置いてあるから、もしかしたら生演奏が聴けるのかもしれない。

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