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第373話

「だって、幸せだから……」  美味しいご飯を食べてる時は幸せだし、それが大好きな正和さんと一緒ならなおさらだ。かなり気を遣ってくれてるんだろうけど、正和さんはいつもより優しいし、これ以上の幸せってあるだろうか。 「可愛い」  船で景色を見ながらの食事はあっという間で、デザートを食べ終えた後、デッキに出てお話ししているうちに埠頭に、戻ってきてしまった。  船を降りたのが九時で、彼の運転で家に帰ってきた頃には九時半を過ぎてしまい、慌てて明日の学校の準備を済ませる。ささっとシャワーを浴びて、ベッドに入ると、今日の楽しかったことを思い出して顔が緩んだ。 *  朝起きると正和さんは既に朝食の支度をしており、彼もスーツを着て出かける準備をしていた。 「正和さんも出かけるの?」 「うん、仕事。今日は少し早いんだ」 「そっか……っ」 (また、あの香水)  ふわっと香った爽やかな匂いに思わず顔を顰める。途端に心臓が早鐘を打ち始め背中には嫌な汗をかいた。 「正和さん……いつもと違う匂い」 「ふふ、ドキドキする?」  なんて冗談めかして聞いてくるけど、嫌な意味でドキドキして落ち着かなくなる。けれど、なんで違う香水をつけているのかは聞く勇気がなくて、そのことについて考えながら朝食をとったので、あまり食べた気がしなかった。 「いってらっしゃい。気をつけて」 「いって、きます……正和さんもいってらっしゃい」 「ふふ、いってきます」  俺の額にちゅっ、とキスを落として彼は車に乗り込む。手を振って来る彼に、手を振り返して俺も家を後にした。

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