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第374話
来週はマラソン大会があるから今日の一、二時間目はそれに向けて練習がある。もともと体育はそんなに好きではない上に、この寒い中外で走るなんて本当最悪だ。
「おい、相楽ぁ! ぼーっとしてないでちゃんと走れ」
「っ……」
無駄に元気な体育教師に注意されて、皆にクスクス笑われる。けれど、寒くて体が動かないのだから仕方ないじゃないか。
正和さんにきついプレイを強いられるおかげで、不本意ながら体力はついたけど、それでも寒いのは苦手だ。
二時間目が終わった後はいつも通りの授業を受けて、正和さんが作ってくれたお弁当を食べ、午後は眠くて居眠りしそうになるのを堪えながら、ノートをとった。
家に帰ると正和さんは帰っていたようで、優しく出迎えてくれる。
「おかえり」
「……ただいま」
やはり、と言うべきか、彼からあの匂いはもうしなくて、代わりに清潔な石鹸の香りがした。胸がツキツキ痛んで、唇をぎゅっと噛む。
だって、いつもと違う香水をつけて、帰ってきたらお風呂上がりの匂いがするだなんて、俺が考えつくことは一つしかない。
「お風呂……もう入ったんだ」
本当は『浮気してるんじゃないの?』とか『誰といたの?』とか聞きたいけれど、聞く勇気なんてないし、浮気した俺に彼を咎める権利はない。
「ごめんね。本当は純と入ろうと思ってたんだけど、汗かいたから先入っちゃった」
「そっ、か……俺、テスト勉強してくるね」
「わかった。じゃあ、夕飯の時間になったら呼ぶね」
「うん」
コクリと頷いて、俯いたまま自分の部屋へ行った。ドサッと鞄を下ろして、震える手でシュルリとネクタイを解く。
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