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第376話

(明日も仕事なのかな……そもそも本当に仕事行ってるのかな)  お風呂を出た後は、彼の部屋の前を通ると扉が開いていたので、仕事をする彼の邪魔をしないように、そっと彼のベッドに入った。布団を掛けて、パソコンで作業している彼の後ろ姿をじっと見つめる。  先ほどからたくさん仕事のメールが来ていて、今は本当に忙しそうだ。 「……どうしたの?」  俺の視線を感じたのか、正和さんがこちらを振り返って、不思議そうに聞いてくる。 「……なんでもないよ」 「ごめんね、もう少しで終わるから」  そう言って再びパソコンと向き合って、書類のチェックをする。  そのまま二十分ほど作業をすると、仕事が終わったのか、彼はパソコンの電源を落として、立ち上がった。 「水飲んでくる」 「うん」  部屋を出て行った彼を目で追って、布団を鼻まで被る。 (……正和さんが、そんなことするわけない)  きっと俺の思い違いだ、と言い聞かせて、目をぎゅっと瞑った。しばらくして、部屋に戻ってきた正和さんが、隣に入ってきたので、そっと抱きつく。足をぴとっとくっつけて絡ませれば、彼は俺の腰に腕を回して抱き寄せてきた。 「そんなにくっついて、どうしたの?」 「…………したい」 「――――」  小さな声でポツリと呟くように言えば、彼はベッドの下をごそごそ探って、男性器を模した形の玩具を取り出した。 「どうぞ。ピアスのとこ直接触らなければ、もう大丈夫だと思うよ」 「えっ……」 「俺がいるとしづらい? 出てった方がいいかな」 「ち、違っ……そうじゃ、なくて……っ」 「ん?」  意地悪をしているというより、本当に正和さんにする気がないようだ。悲しくなって、唇をぎゅっと噛んで俯く。 「……やっぱ、寝る」 「そう? じゃあ電気消しちゃうよ」 「……うん」  バクバクする胸を押さえて掛け布団に潜ったら、ピッ、と言う音と共に部屋が暗くなる。 「おやすみ」 「……おやすみ、なさい」  泣きそうになるのを堪えて震える声で挨拶を返し、彼とは反対を向こうとした。けれど、正和さんはいつものように優しく抱き締めてくれて、額にキスを落とされる。 「っ……」 (大丈夫、……大丈夫)  きっと、疲れているのかもしれないし、あんなことがあった後だから、まだそんな気持ちになれないだけだ。  自分にそう言い聞かせて、必死に心を落ち着けて、彼の腕の中で眠りについた。

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